~Maker Interview~

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Wi-Fi利用のIoTアプリケーション、開発を促進するマイコン搭載の開発キットが登場

末武清次氏 末武清次 氏

 すべてのモノがインターネットにつながる・・・。いわゆる「IoT(Internet of Things)の時代」が本格的に到来しつつある。すでにパソコンやスマートフォンだけでなく、自動車やテレビ、照明器具、エアコン、冷蔵庫、工場の製造装置、監視カメラ、医療機器などのさまざまなアプリケーションで、インターネット接続が可能になっている。

 こうしたIoTアプリケーションを実現する上で欠かせない存在が2つある。それは、マイコンと無線通信機能だ。マイコンは、信号処理や演算処理を実行し、無線通信機能はインターネットとの接続を担当する。ここで問題になるのは、最適なマイコンや無線通信機能の選択である。アプリケーションによって、求められる要件が違うため、アプリケーションの特性をしっかり把握した上で、マイコンと無線通信機能を選ばなければならない。

 サイプレス セミコンダクタ社はすでに、Bluetooth Low Energy(BLE)に対応したIoTアプリケーションの開発キット「PSoC® 6 BLE Pioneer Kit」を製品化済みだ。スマートウォッチやヘルストラッカー、活動量計、センサー端末など、非常に低い消費電力が求められるIoTアプリケーションに向ける。そして同社は、無線LAN(Wi-Fi)に対応したIoTアプリケーション向け開発キット「PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kit」を新たに発売した。今回は、同社のマイコン事業部 マーケティング部でプロジェクト課長を務める末武清次氏に、新しい開発キットを発売した理由、ターゲットとするユーザー層、製品の性能や特徴などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

「PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kit」では、どのようなアプリケーションを対象にしているのか。

「PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kit」

図1:「PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kit」
マイコンや無線通信モジュールなどが搭載されたボード(Pioneer Board)や、それに接続して使用するオプション基板(シールド)、USBケーブルなどが同梱されている。

末武 ターゲットとするのは、IoTアプリケーションである(図1)。確かに、IoTアプリケーションでは、Bluetooth Low Energy(BLE)を採用するケースが少なくない。しかし、その一方で、無線LAN(Wi-Fi)を使うケースも数多くある。例えば、スマート・ホーム対応機器やホーム・ゲートウェイなどだ。さらに最近では、白物家電でもWi-Fiを搭載し、「IoT対応」をうたっている製品が発売されている。例えばエアコンであれば、外出先からスマートフォンで操作して、帰宅する時刻に快適な温度にしておくといった使い方が可能になっている。今回発売したキットは、こうしたIoTアプリケーションの開発に最適だろう。

BLEとWi-Fiはどのように使い分ければいいのか。

末武 Wi-Fiのメリットとしては、例えば、「接続容易性が高いこと」や「通信距離が長いこと」などが挙げられるだろう。前述のスマート・ホーム対応機器や、ホーム・ゲートウェイ、白物家電などの用途では、データ伝送速度の高さはあまり重要ではない。画像や映像を送ることはないからだ。どちらかといえば、スイッチに近い使い方をする。このため、「つながることが重要」だと考えられている。

 しかも、前述のようなIoTアプリケーションは、いずれも商用電源から電力を常時供給される。従って、低消費電力であることもさほど重要ではない。そうした用途では、BLEではなくWi-Fiを選択することになるだろう。

マイコンには「PSoC 62ライン」を採用

PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kitは、どのような構成になっているのか。

低消費電力で演算性能が高いマイコン「PSoC 6」

図2:低消費電力で演算性能が高いマイコン「PSoC 6」

「PSoC 62ライン」の内部構成

図3:「PSoC 62ライン」の内部構成
150MHz動作の「Arm® Cortex®-M4」と100MHz動作の「Arm Cortex-M0+」によるデュアルコア構成。フラッシュ・メモリーの容量は1Mバイトである。

末武 マイクロコントローラ(マイコン)は、低消費電力ながらも演算性能が高い「PSoC 6」である(図2)。PSoC6には、BLEに対応した無線通信機能を集積した製品ライン「PSoC 63ライン」と、搭載していない製品ライン「PSoC 62ライン」などがあるが、今回のキットでは後者のPSoC 62ラインを採用した(図3)。マイコンの品番は「CY8C6247」である。これに、Wi-FiとBluetoothに対応した2.4GHzの無線通信モジュールを組み合わせた。無線通信モジュールは、村田製作所の「LBEE5KL1DX」を採用した。このモジュールには、当初のIEEE 802.11b/g/n対応Wi-Fiチップである当社の「CYW4343W」が搭載されている。

PSoC 62ラインとは、どのようなマイコンなのか。

末武 PSoC 63ラインとPSoC 62ラインは、BLE機能を集積しているかいないかの違いがあるものの、そのほかの基本的な構成はほぼ同じである。すなわち、150MHz動作の「Arm Cortex-M4」と100MHz動作の「Arm Cortex-M0+」によるデュアルコア構成であり、フラッシュ・メモリーやSRAM、プログラマブルなアナログ機能、入出力インターフェースなどを1チップに集積したマイコンである。

 PSoC 62ラインの中には、フラッシュ・メモリーやSRAMの容量や、集積した周辺機能の違いで複数の製品がある。そのうちの1つが前述のCY8C6247である。1Mバイトのフラッシュメモリーや288KバイトのSRAM、UDB(Universal Digital Block)、フルスピード対応のUSB、GPIO、オペアンプ、 A-Dコンバータ、静電容量方式のタッチセンサ「CapSense®」などの機能を集積してある。

マイコンにBLE機能を集積していないということは、外付けの無線通信モジュールに搭載されているBLE機能を利用するということか。

末武 その通りだ。PSoC 62ラインには、BLE機能を搭載していないため、無線通信モジュールのBLE機能を使う。

外付けの無線通信モジュールとマイコンはどのような方法で接続するのか。

末武 今回搭載したCY8C6247には、SDHC対応のインターフェースを搭載していない。このためUDBを使って接続する。

ディスプレイのシールドが付属する

今回のキットでは、Wi-FiとBluetoothの両方を利用できるということか。

末武 その通りである。BLEに対応した無線信号を受信することも可能だ。ホーム・ゲートウェイなどの用途では、Wi-FiとBLEの組み合わせは最適解だと言えるだろう。BLEを介して住宅内のさまざまセンサー情報を取得し、Wi-Fiを介してユーザーの操作情報やインターネット上の多種多様な情報を集めることができるからだ。

 このほかにも、ホーム・ゲートウェイなどのIoTアプリケーションの構築に便利な機能を用意した。それは、2.8インチのTFT液晶パネルをシールド(オプション基板)として同梱したことである。今回のキットは、ワンボードマイコン「Arduino(アルデュイーノ)」との互換性があるため、Arduinoで使えるシールドをそのまま適用できる。さらに、独Segger Microcontroller社のディスプレイ・ドライバが付くため、ディスプレイ機能を簡単に追加することが可能だ。

 TFT液晶パネルの画素数は320×240である。ホーム・ゲートウェイのステータスを表示する用途に使える。「ホーム・ゲートウェイをちょっと作ってみたい」と考えるユーザーには最適なキットだろう。

どのようなユーザーに使ってほしいと考えているのか。

末武 Wi-Fiについては詳しいが、PSoC 6は使った経験がない設計者や技術者である。こうした人たちに購入してもらい、Wi-FiやCapSense、各種シールドを使うことでさまざまなアプリケーションを実現できることを体感してほしい。

どのような開発ツールを用意しているのか。

末武 PSoC 6の開発については、当社の統合開発環境(IDE)である「PSoC Creator」が使える。無線通信モジュールに関する開発については、ソフトウエア開発キット(SDK)「WICED®(Wireless Internet Connectivity for Embedded Devices)」が対応する。

2Mフラッシュ品を展開予定

PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kitの今後の製品展開について教えてほしい。

「PSoC 6」の製品ポートフォリオ

図4:「PSoC 6」の製品ポートフォリオ
現在、PSoC 62ラインにおいて、フラッシュ・メモリーの容量を2Mバイトに増やした「CY8C6248」を展開予定だ。

末武 現在、PSoC 62ラインにおいて、フラッシュ・メモリーの容量を2Mバイトに増やした「CY8C6248」を開発中である(図4)。2Mバイトあれば、多くの用途においてユーザーが開発したプログラムとデータを十分に格納できるようになり、使い勝手をより高めることが可能になる。さらに、SDHC対応のインターフェースを2チャネル搭載する予定である。これを使って無線通信モジュールと接続できるようになる。UDBを使って接続するという手間を省けるようになる。

PSoC 63ラインではBLE機能を1チップ化している。Wi-Fi機能を集積したPSoC 6が製品化される可能性はあるのか。

末武 いずれ1チップ・ソリューションに至るのは間違いないだろう。ただし現状では、製造技術が追いついていない。Wi-Fi対応の無線通信チップは28nmプロセスで製造しているが、フラッシュ・メモリー内蔵マイコン(PSoC 6)の製造技術は40nmプロセスである。今後、製造プロセス技術の開発を進めれば、それぞれの機能をより微細化したプロセスで製造できるようになれば、1チップ・ソリューションが現実味を帯びてくるだろう。

IoTアプリケーション開発向けMCUソリューション開発ボード

PSoC 6 BLE Pioneer Kit “CY8CKIT-062-WIFI-BT”

メーカインタビューでもご紹介したPSoC 6 BLE Pioneer Kitを発売中です。 PSoC 6 WiFi-BT Pioneer Kit(CY8CKIT-062-WiFi-BT)は、PSoC 62 MCUおよびMurata LBEE5KL1DXモジュール(CYW4343W WiFi + Bluetoothコンボチップ)の設計およびデバッグを可能にする低コストのハードウェアプラットフォームです。さらにTFTシールドも付属しています。