81. ディスプレイ
家庭用テレビやパソコン用モニター、携帯電話機、電子書籍などには、さまざまな方式のディスプレイが採用されています。
ここでは、その方式ごとに原理や特徴をまとめました。
液晶パネル |
液晶パネルの基本的な構造は、液晶材料を2枚の電極で挟み、さらにこれを2枚の偏光板で挟むというものです。カラーを表示する場合は、表面の偏光板の上にカラー・フィルタを重ねます。液晶パネルの裏面からバックライト光を当てると、直線偏光の光だけが偏光板を通過し、液晶層に到達します。このとき、液晶層に電圧が印加されていると、直線偏光の光は液晶層によって90度ねじられてしまい表面にある偏光板で遮断されます。つまり、黒表示になるわけです。しかし、電圧が印加されていなければ、直線偏光の光は液晶層でねじられることなく通過し、表面の偏光板を透過します。つまり、白表示になります。液晶パネルでは、電極に印加する電圧のオン/オフを制御することで、文字や画像などを表示します。なお、液晶パネルは、液晶層への電圧の印加方式の違いや、採用する液晶材料や電極配置の違いで分類されます。電圧の印加方法では単純マトリクス方式とアクティブ・マトリクス方式に、液晶材料と電極配置の違いでは、TN(twisted nematic)型やIPS(in plane switching)型、MVA(multi domain vertical alignment)型、OCB(optically compensated bend)型などに分けられます。 |
PDP |
PDP(plasma display panel)は、プラズマ放電を利用した表示装置です。ガラス基板上に隔壁という細い溝を作り、蛍光体を塗布します。これが画素列になります。この溝に希ガスを封入して電圧を印加すると紫外線が発生し、これが蛍光体に衝突することで文字や画像を表示します。PDPは、構造と駆動方法の違いでDC型とAC型に分けられます。DC型は、プラズマ放電が発生する空間に電極が露出しているタイプ、AC型は誘電体層や酸化マグネシウム層などで電極を被膜しているタイプです。現在実用化されているPDPは、そのほとんどがAC型です。 |
FED |
FED(field emission display)は、平面CRT(cathode ray tube)という別名が存在するように、表示原理はCRTと同じです。つまり、電子源から取り出した電子を真空中で加速させ、蛍光体に衝突させて文字や画像を表示するという原理です。違いは、電子源にあります。一般的なCRTでは、一つの電子銃を使っているのに対して、各画素に対して作り込んだ電子源を採用しています。この電子源から電子を取り出し、各画素に塗布した蛍光体に衝突させて文字や画像を表示しているわけです。電子源の形状として多く採用されているのは、先端が鋭く尖った円錐です。先端に高い電圧を印加すると、形状の効果から比較的簡単に電子が取り出せます。この形状の電子源を「Spindt(スピント)型冷陰極電子源」と呼びます。なお、キヤノンが薄型テレビとして製品化を目指していたSED(surface-conduction electron-emitter display)はFEDの一種です。同社が独自に開発した電子源を採用しています。1枚の薄膜の中央に、幅が極めて狭いスリットを設け、スリットの間に電位差をかけるとトンネル効果で電子が放出されます。この電子を取り出して加速させ、蛍光体に調突させて文字や画像を表示します。 |
有機ELパネル |
有機ELパネルとは、有機化合物が励起状態から基底状態に戻るときに発光する現象(エレクトロルミネセンス現象)を利用したディスプレイです。複数の有機化合物を積層して製造します。陰極と陽極の間に電圧が印加することで電子と正孔を注入し、これを電子輸送層と正孔輸送層を介して運び、発光層で結合させることで励起します。こうして発光を得るわけです。発光色は使用する有機化合物で決まります。従って、カラー表示を得る場合は、赤と緑、青の発光色が得られる有機化合物を使ったり、白色光が得られる有機化合物にカラー・フィルタを組み合わせたりします。有機ELパネルも液晶パネルと同様に、駆動方式の違いで、単純マトリクス方式とアクティブ・マトリクス方式があります。単純マトリクス方式のメリットはコストが低い点にあります。一方、アクティブ・マトリクス方式のメリットは、高精細化が可能なことと、大画面化が実現できることが挙げられるでしょう。従って、携帯電話機のサブディスプレイには単純マトリクス方式、有機ELテレビなどにはアクティブ・マトリクス方式が採用されています。 |
無機ELパネル |
無機ELパネルとは、硫化亜鉛や硫化ストロンチウムなどの無機材料に比較的高い電圧を印加した際に発生するエレクトロルミネセンス現象を利用したディスプレイです。発光層を絶縁層で挟み、それぞれの絶縁層に電極を設けた構造になっています。1980年代には、モノクロ(橙色)の無機ELパネルが実用化され、ワープロに搭載されました。しかし、青色に発光する材料の開発が遅れたため、液晶パネルとの競争に敗れてしまいました。ただし、1990年代後半に、色純度の高い青色発光材料が開発され、フルカラー無機ELパネルの開発が活気づきました。先頭を走っていたのはカナダのiFire Technology社です。薄型テレビに向けて開発を進めていましたが、現在(2010年6月時点)では開発目標の見直しなどを行っているようです。 |
LEDディスプレイ |
LEDディスプレイとは、半導体デバイスである発光ダイオード(LED)素子を並べて構成した表示装置です。赤色LED素子と緑色LED素子、青色LED素子を1単位(画素)として並べます。LEDは輝度がとても高いため、非常に明るいディスプレイが実現できますが、素子を並べて構成するので解像度(単位長さあたりの画素数)が低いというデメリットがあります。従って、人間が近くで見るパソコン用モニターや携帯電話機のディスプレイ、家庭用テレビには適していません。現在は、野球場や競馬場、サッカー場、体育館などの公共施設に設置する大型表示装置に使われています。 |
電子ペーパー |
電子ペーパーとは、紙に近い視認性を備えているとともに、消費電力が低いディスプレイです。表示する画像を更新する際には電力が必要ですが、いったん表示した画像を維持する電力は不要という紙に近い特徴を備えています。ただし、一口に電子ペーパーと言ってもその実現技術は複数あります。具体的には、電気泳動方式や電子粉粒体方式、コリステリック液晶方式、エレクトロウェッティング方式などです。この中で実用化という点で一歩先んじているのが電気泳動方式です。米Amazon.com社やソニーの電子ブック端末に採用されています。この方式は、非常に微小なカプセル(マイクロカプセルと呼ぶ)の中に、正に帯電した白い粒子(酸化チタン)と負に帯電し黒い粒子(カーボン・ブラック)をオイルとともに入れ(帯電の極性は逆でも構わない)、外部から電界をかけることで白色もしくは黒色の粒子を上下させて画像を表示するというものです。電界の印加を止めると粒子はその場に停止します。再び、電界をかけるまで、その状態を維持可能です。従って、極めて少ない消費電力で文字や画像を表示できます。 |
DLP |
DLP(Digital Light Processing)とは、DMD(Digital Micromirror Device)と呼ぶ素子と信号処理回路を組み合わせて実現したプロジェクター(投射型ディスプレイ)です。米Texas Instruments社が開発しました。DMDとは、可動式のミラー(鏡)を画素数分だけSiチップ上に作り込んだ半導体素子である。電圧を印加するとミラーが傾き、光源の光がスクリーンに投射されます。一方、電圧を印加しないとミラーは元の位置から動かず、光はスクリーンに投射されません。こうした文字や画像を表示します。現在は、オフィスなどで使用するデータ・プロジェクターや、映画館のデジタル映写機などで採用されています。 |