~Maker Interview~

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最新のFPGAにも対応できる電源モジュール、パッケージの進化で小型化と大電流化を両立

戸上晃史郎氏 戸上晃史郎 氏

 データセンター機器や通信/ネットワーク機器、AI関連機器などに搭載するプロセッサやFPGA、GPU、SoCといったデジタルLSIの性能向上が急だ。当然ながら、性能を高めれば消費電力と発熱量は増加してしまう。しかし、できる限り増加分は抑えたい。そこで、製造プロセス技術の微細化が急ピッチで進んでいる。すでにFPGAでは7nm技術で製造するチップが製品化されており、2020年には5nm技術で製造したプロセッサも登場する見込みだ。

 デジタルLSIにとって、製造プロセスの微細化は歓迎すべき動きだと言えるだろう。しかし、そのデジタルLSIに電力を供給する電源回路にとっては、諸手を挙げて歓迎できる動きではない。なぜならば、微細化の進展によって、デジタルLSIに供給する電力の「低電圧大電流化」が進むからだ。7nmチップでは、電源電圧は0.7V程度に下がり、供給電流は100 Aを超えることになる。定電圧大電流化が進めば、電源回路設計は飛躍的に難しくなる。経験豊富なアナログ技術者でなければ、設計できなくなってしまうはずだ。

 現在、低電圧大電流化に伴う課題を解決できるとして注目を集めているのが電源モジュール(DC-DCコンバータ・モジュール)である。電源モジュールとは、1つのパッケージの中に、電源制御ICやスイッチング素子、インダクタ、コンデンサ、抵抗などを収めたもの。ユーザーは、これをアプリケーションに搭載するだけで電源回路設計が完了する。今回は、電源モジュール市場を牽引するアナログ・デバイセズ(Analog Devices)でリージョナルマーケティング マーケティングマネージャーを務める戸上晃史郎氏に、電源モジュールの最新技術動向や、最小した際のメリット、最新製品の特性などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

まずは、電源モジュールとはどのようなものなのか。簡単に説明してほしい。

戸上 電源モジュールとは、スイッチング素子を集積したDC-DCコンバータICと、インダクタやコンデンサなどの周辺部品を1つのパッケージに収めたものである。当社は、「μModule(マイクロモジュール)」と呼んでいる。

マイクロモジュールを最初に製品化したのはいつごろのことか。

戸上 2007年である。それから現在まで約12年が経過しているが、売上高の伸び率は抜群にいい。常に2ケタ成長を続けている。

なぜ、マイクロモジュールの売り上げは好調なのか。

戸上 基本的にDC-DCコンバータ回路の設計は技術的な難易度が高いからだ。期待通りの性能を得るのは難しく、信頼性の担保は非常に大変である。しかも、レイアウトや周辺部品に起因する問題が発生する可能性も高い。その点、マイクロモジュールであれば、すべてがパッケージに収められているので、DC-DCコンバータ回路の設計は劇的に楽になる。それが市場に受け入れられている理由だろう。

総合的なコストは1/5に

マイクロモジュールの採用によって得られるメリットを具体的に説明してほしい。

部品点数や実装面積を大幅削減

図1:部品点数や実装面積を大幅削減

ノイズ(EMI)対策は不要

図2:ノイズ(EMI)対策は不要
放射電磁ノイズ(EMI)の規制値である「CSIPR22クラスB」や「CISPR25クラス5」をクリアできる。

戸上 得られるメリットは大きく分けて5つある。すなわち、「かんたん設計」「豊富なラインナップ」「コンパクトソリューション」「設計サポート、リファレンス回路」「高い信頼性」の5つである。以下で、5つのメリットについて詳しく説明していこう。

 かんたん設計の具体例としては、DC-DCコンバータが1つのパッケージに収められるため、ユーザー側はアナログ回路設計のノウハウが一切いらない点が挙げられる。もちろん、入力コンデンサや出力コンデンサなどを外付けする必要があるが、部品点数は6個で済む(図1)。ディスクリート部品を使う場合は20個が必要だった。この結果、基板上の実装面積は、ディスクリート部品を使う場合は450mm2だったが、マイクロモジュールを使えば100mm2に抑えられる。

 さらに、ノイズ対策が不要なことも「かんたん設計」の1 つだろう(図2)。基本的に、ノイズ対策はパッケージの中で終わっているからだ。ユーザーがノイズ対策を実行する必要はなく、購入したらすぐに使える。

使い勝手の高さは理解できるが、その分だけ価格が高いのではないのか。

マイクロモジュールは低コスト化が可能

図3:マイクロモジュールは低コスト化が可能
ディスクリート部品を使う場合に比べて、マイクロモジュールを使えば「隠れたコスト」を削減できる。このため、コストは、ディスクリート部品を使う場合に比べて約1/5に削減できる。

戸上 マイクロモジュールは価格が高い。そういったイメージを持っている技術者は少なくないだろう。実際に、部品コストだけで比較すれば、ディスクリート部品を使った方が安く済む。

 しかし、ディスクリート部品で構成した場合は、回路設計の工数や信頼性評価のコスト、品質保証のコストなどが上乗せされる。特に、品質保証に関するコストは不確定要素であり、何らかのトラブルが発生すれば大きなコスト負担を強いられる。一方、マイクロモジュールを採用すれば、すべてがパッケージ内部で完結しているため、トラブルが発生しても、それはすべてアナログ・デバイセズの責任になる。ユーザーは責任を負う必要がないため、コスト負担はゼロである。

 加えて、マイクロモジュールを採用すれば、部品の生産中止リスクを大幅に減らせる。ディスクリート部品を使う場合は、DC-DCコンバータICやコンデンサ、インダクタ、抵抗などの各部品の生産中止に注意を払わなければならない。いずれかの部品が生産中止になれば、代替部品の探索や設計変更を強いられるからだ。いずれもコストの増加に直結する。マイクロモジュールを採用すれば、こうしたコストも一切かからない。

 つまり、マイクロモジュールを採用すれば、部品コスト以外の隠れたコストを大きく削減できる。そうしたコストまで考慮すれば、ディスクリート部品を使った場合に比べて、マイクロモジュールを採用すればコストを約1/5に削減できる(図3)。

しかし現在、積層セラミック・コンデンサ(MLCC)は入手困難な状況にある。こうした事態が起きれば、それを搭載するマイクロモジュールを入手できなくなってしまうのではないか。

戸上 当社では、マイクロモジュールに搭載するすべての電子部品を1年以上分、在庫として抱えている。このため、MLCCに限らず、電子部品が入手できないことでマイクロモジュールが出荷できなくなる事態に陥ることはない。

1.82mmの低背品も用意

2つ目のメリットである豊富なラインナップについて説明してほしい。

CoP技術

図4:CoP技術
インダクタをヒートシンクとして利用することで、小型化と大電流化を実現した。

戸上 前述のように、マイクロモジュールは2007年に初めて製品化した。その後、品揃えを拡張している。現在では、降圧型DC-DCコンバータや昇降圧型DC-DCコンバータ、昇圧型DC-DCコンバータはもちろんのこと、絶縁型DC-DCコンバータやLEDドライバなどのマイクロモジュールも手がけている。

 品揃えの拡充に合わせて、パッケージ技術の進化も見逃せない。現在では、CoP(コンポーネント・オン・パッケージ)というパッケージ技術を使っている(図4)。この技術は、インダクタをヒートシンクと兼用するというものだ。パッケージの内部にインダクタを収めて密閉してしまうと、インダクタからたくさんの熱が放出されるため、放熱性が悪化してしまう。そこでインダクタを外部に露出させ、それをヒートシンクとしても利用しようという考え方である。こうすることで放熱性能が高まり、従来よりも大きな電流を扱えるようになった。

3つ目のコンパクト・ソリューションについて、具体例を教えてほしい。

戸上 パッケージの外形寸法は年々小型化されている。例えば、15A出力品で比べると、4年前に製品化した「LTM4627」の寸法は15mm×15mm×4.92mmだった。一方で、2018年第2四半期にサンプル出荷を始めた「LTM4638」はCoP技術の適用などで、6.25mm×6.25mm×5.02mmまで小型化している。従来品を最新製品に置き換えることでプリント基板上の実装面積は83%削減できることになる。

 薄型品も用意している。FPGAのパッケージと同じ高さにしてほしいという要求が強いからだ。高さが同じならば、ヒートシンクを兼用できるためである。現在では、1.82mmまで薄型化している。

故障率は0.4FIT

4つ目の「設計サポート、リファレンス設計」では、具体的にどのようなメリットが得られるのか。

リファレンス設計を用意

図5:リファレンス設計を用意

戸上 FPGAなどのデジタルLSIの電源回路設計は難しい。デジタルLSIが電源に求める要件が非常に厳しいからだ。動作状態が変化して供給電流(負荷電流)が小刻みに変化しても、出力電圧の変化は10mV程度に抑えなければならない。

 そこで当社は、FPGAベンダーやSoCベンダーなどと協力して、リファレンス設計を用意している(図5)。当社はマイクロモジュールを提供し、FPGAやSoCなどが求める要件をクリアできることを実証しているわけだ。FPGAやSoCなどを採用する電子機器メーカーは、このリファレンス設計通りに電源回路を構成すればFPGAやSoCなどを正しく動かすことができるようになる。

 さらに当社は、回路シミュレータ「LTspice」に向けたマイクロモジュールの解析モデルを提供している。これを使えば、マイクロモジュールの回路動作を確認できる。

マイクロモジュールでも、シミュレータを使って解析する必要があるのか。

戸上 シミュレーションを実行して、起動時間や過渡応答特性などを確認した方がいいだろう。例えば、過渡応答特性を解析すれば、出力に接続するコンデンサの容量を最適化できるようになる。

5つ目のメリットである「高い信頼性」について説明してほしい。

戸上 マイクロモジュールの信頼性は極めて高い。当社では、マイクロモジュールの故障率を0.4FIT(Failure In Time)で運用している。実際のところ、2007年にマイクロモジュールを製品化してから現在まで不良品を出したことはない。不良解析の依頼で、ユーザー側から当社に戻されるものもあるが、そのほとんどはユーザー側の実装作業の不備に起因する問題である。

最新のFPGAに対応へ

マイクロモジュールの最新製品を紹介してほしい。

第4世代のパッケージ技術が登場

図6:第4世代のパッケージ技術が登場

戸上 最新製品である「LTM4700」は、当社の第4世代に相当するパッケージ技術を採用している(図6)。基本的にはCoP技術なのだが、第3世代と比較するとインダクタに大きな変更が加えられている。具体的には、巻線の巻き方などを変えることで直流抵抗(DCR)を削減した。このため、従来品に比べて大きな電流を扱えるようになり、最大出力電流は100Aに達した。

 ただし今後の新製品はすべて、第4世代のパッケージ技術を採用するわけではない。第3世代のパッケージ技術を採用した新製品も積極的に投入していく。例えば、2018年11月には、第3世代のパッケージ技術を使ったマイクロモジュール「LTM4626」を発売した。外形寸法が6.25mm×6.25mm×3.87mmと小さいにもかかわらず、最大出力電流や12Aや15Aが得られる。基本的に、最大出力電流が10Aを超えれば第3世代、もしくは第4世代のCoP利用のパッケージ技術を適用する。しかし、出力電流がもっと低い製品については第1世代、もしくは第2世代のパッケージ技術を適用する考えである。

今後の製品ロードマップについて教えてほしい。

進む低電圧大電流化

図7:進む低電圧大電流化
最新のFPGAでは、コア電圧は0.75Vに低下し、供給電流は120Aに増える。

戸上 将来的には、最新のFPGAに対応したマイクロモジュールを製品化する予定だ。例えば、インテル社のFPGA「Stratix 10」などに向けたマイクロモジュールである。Stratix 10は、14nmと微細なプロセス技術で製造しているため、コア電圧(電源電圧)は0.75Vと低い(図7)。しかも規定されている許容電圧範囲は±1%である。つまり電源電圧変動は±7.5mVしか許されない。それにもかかわらず、最大供給電流は120Aに達する。これはかなり難しい要求だと言えるだろう。しかし、当社のマイクロモジュールであれば、この厳しい要求をクリアできることを確認済みである。

どうやって厳しい要件をクリアしたのか。

戸上 DC-DCコンバータのフィードバックループはアナログ制御だが、それとは別に出力電圧を監視して内部で補正をかけるデジタル制御を搭載することで実現した。出力電圧を検出し、内蔵したA-Dコンバータでデジタル値に変換し、基準電圧と比較する。もし、ここで正しい値でなければ、D-Aコンバータを介してフィードバックをかけることで出力電圧を微調整する。こうして最新のFPGAが求める厳しい要求をクリアした。

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