~Maker Interview~

メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
※最新の業界動向をお届けします。

「世界基準」の電源モジュールで国内市場を開拓へ、グローバルな業界標準規格対応や高密度化技術で競合他社をリード

奥村哲 氏(左) 若森聖弘氏 (右) 奥村哲 氏(左) 若森聖弘氏 (右)

 産業機器も通信機器も医療機器もコンピュータ機器も電源がなければ動作しない。故障さえも許されない。壊れてしまえば、機器そのものが機能しなくなってしまうからだ。こうした電子機器では、部品としての電源モジュールを専門メーカーから購入して、機器本体に組み込むのが一般的だ。この電源モジュール市場で、世界トップ3のシェアを誇るのが米Artesyn Embedded Technologies(アーティセン・エンベデッド・テクノロジーズ)社である。2015年の売上高は12.2億米ドルに達する。

 現在同社は、日本国内での市場シェア拡大を目指し、取り組みを強化している。しかし、日本市場の開拓は一筋縄ではいかない。日本には、数多くの電源モジュール・メーカーが存在しているからだ。「老舗」とも言える電源モジュール・メーカーも少なくなく、こうしたメーカーは電子機器メーカーと親密な関係を構築している。この関係を攻略しなければ、売上規模を拡大させることは難しい。どうやって日本市場を開拓するのか。今回、アーティセン・エンベデッド・テクノロジーズ ジャパン ジャパン・カントリーマネージャー兼事業統括部長の若森聖弘(わかもり・まさひろ)氏と、同社 営業部長の奥村哲(おくむら・さとる)氏に、日本市場の開拓に向けた戦略や、現在の取り組み、製品の特徴などについて聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

Artesyn Embedded Technologies社が設立された経緯を教えてほしい。

Artesyn Embedded Technologies社の沿革

図1: Artesyn Embedded Technologies社の沿革

若森 Artesyn Embedded Technologies社は、米Emerson Electric (エマソンエレクトリック)社の電源モジュール事業と組み込みコンピューティング事業がスピンアウトして、2013年11月に誕生した新会社だ(図1)。投資会社のPlatinum Equity社が株式の51%、Emerson Electric社は引き続き49%を保持している。

なぜArtesyn Embedded Technologies社は、電源モジュール事業において高いシェアを握ることができたのか。

若森 エンジニアリングセンターや自社工場に多大な投資を行い、また技術力の優れた企業を買収してきた。当社の母体となっているAstec Power社は、高い競争力を備えた電源モジュール・メーカーだったが1998年にはカナダNortel社のPower System部門を、2000年にはスウェーデンEricsson Energy Systems社を、2006年には米Artesyn Embedded Computing社を買収して、電源モジュール事業を強化している。

 なお、組み込みコンピューティング事業については、Artesyn Embedded Computing社のほか、米Motorola社のECC/MCG事業部門を2007年に買収することで製品ポートフォリオの強化を図っている。

品質は特に重視

日本での販売体制について教えてほしい。

若森 日本支社の従業員は16人である。決して、多い人数とは言えない。そこで販売に関しては、代理店の協力を仰ぐかたちで進めている。日本支社の従業員は、営業マネジメント、新製品のプロモーションや技術/品質サポートなどの業務を中心に取り組んでいる。

日本国内での販売活動において、特に力を入れていることは何か。

若森 品質への対応だ。日本市場は、ほかの世界の国や地域に比べて、品質に対する要求が非常に厳しい。そこで、16人と少ない人員だが、そのうちの2人を品質担当に充てている。顧客と当社工場の間に入って、不良品の解析や改善などを指揮する役割を担う。さらに日本国内には、1次解析を実行できるラボも用意している。

 電源モジュールの出荷テストについても、日本は特別だ。海外の工場を出荷する際に行うテストに加えて、日本に到着してから再び出荷テストを実施している。現地での再テストを実施しているのは、当社では日本だけ。それだけ品質を重視しているわけだ。

日本では、どのような製品分野に向けた販売が多いのか。加えて、標準品とカスタム品は、どちらの方が多いのか。

4つの分野に向けた電源製品を用意

図2: 4つの分野に向けた電源製品を用意

若森 主に4つの製品分野に向けて販売している。すなわち、サーバーなどのデータセンター向け電子機器と、テレコム向け電子機器、産業/医療向け電子機器、民生向けACアダプターである(図2)。

 標準品とカスタム品の比率については、日本では、標準品が圧倒的に多い。そもそも競合他社と比較して標準製品を幅広くラインアップしている。また例えば、米国、ヨーロッパの大手顧客と共に開発した電源モジュールを標準品化して販売するケースも多い。

 標準品のファームウエアやコネクタなどの変更/改良などには積極的に対応している。この点については、日本の電源メーカーと同レベルの対応が可能だ。

豊富な製品ラインナップ

日本の電源メーカーと比較した場合、セールスポイントとなるのは何か。

製品ポートフォリオ

図3: 製品ポートフォリオ
AC-DCコンバータやDC-DCコンバータなどを用意している。

若森 当社は、電源モジュールのグローバル・リーダー企業だ。そのためワールドワイドでの販売を前提に製品開発に取り組んでおり、すべての製品が業界のトレンドに則ったものとなっている。

 この基本理念が端的に表れているのは、各種規格への対応だろう。当社製品は、医療用電子機器に求められる安全規格「IEC 60601」や、中国の安全規格「CCC(China Compulsory Certificate)/CQC(China Quality Certification)」などに対応した製品を数多く展開している。つまり設計段階から、各種規格の取得を前提にしている。電源メーカーの中には、標準品を開発した後で、各種規格を取得するための設計変更を加えるところも少なくない。しかし、この方法では、規格取得コストを増やしてしまうことになるし、そもそも対応できないケースもある。

 さらに、グローバル・リーダー企業であるため、製品ラインナップが豊富だ(図3)。これもセールスポイントの1つだろう。日本では、一部の電源製品を得意とする専門メーカーが比較的多いが、当社は総合的に製品を用意しているため、顧客のさまざまな要求に応えられる。

技術的な観点で比較した場合のセールスポイントは何か。

奥村 高効率化、高電力密度化、小型化については、業界トップクラスにある。例えば、250W出力のAC-DCコンバータ・モジュールでは、2インチ×4インチ(50.8mm×101.6mm)を実現した。電源関連の展示会にこのモジュールを出品したところ、競合企業の関係者が来て「ここまで小さくしてしまったのか」と驚いていた。

逆に、日本の電源メーカーと比較した場合に劣っている点は何か。

若森 技術的な点で劣っていることは何もない。敢えて劣っている点を探すとすれば、社名が変更された影響もあり、知名度が低いことだろう。知名度では、台湾Delta electronics社やTDK、コーセルなどの競合他社の方が優位な状況にある。この状況を改善するために各代理店と協力して積極的なマーケティング活動を行っている。

デジタル制御技術で小型化

最近市場に投入した電源モジュールの中で、競合他社にはない特徴を持つ製品を紹介してほしい。

モジュラー・タイプの電源

図4: モジュラー・タイプの電源
「μMPシリーズ」。入力はAC85〜264V、DC120〜300V。
4スロット品と6スロット品がある。出力電力は最大1800W。
外形寸法が1.57インチ×5.0インチ×10.0インチ(39.9mm×127mm×254mm)と小さい(6スロット品の場合)。

奥村 3つの製品を紹介させてほしい。1つめは、モジュラー・タイプの電源「μMPシリーズ」である(図4)。入力はAC85〜264V、DC120〜350Vに対応する。4スロット品と6スロット品があり、希望する出力電圧/電流のモジュールを各スロットに挿入して提供可能だ。最大の特徴は、出力電力が最大1800Wと大きいにもかかわらず、外形寸法が1.57インチ×5.0インチ×10.0インチ(39.9mm×127mm×254mm)と小さいことだ(6スロット品の場合)。電力密度は22.9W/(インチ)3に達する。

 出力電圧のラインナップが25種類と多いことも特徴だ。5Vや12V、24Vといった標準的な値だけでなく、2.2Vや8.0V、15V、33Vといった特殊な値も用意している。このためカスタム電源を開発する必要はなく、また後段にDCDCを準備する必要もないためコスト削減に貢献できる。さらに最小発注数量(MOQ)は1個であるため、さまざまな顧客に使ってもらえる。

どのような顧客を想定しているのか。

奥村 複数個のオープンフレーム電源を搭載しているシステム(電子機器)に最適である。μMPシリーズを使えば、1つのモジュラー電源にまとめることができる。具体的には、半導体関連装置や医療機器等の幅広い産業機器を扱う電子機器メーカーを想定している。

2つめは何か。

オープンフレーム・タイプのAC-DCコンバータ

図5: オープンフレーム・タイプのAC-DCコンバータ
「CPS250-Mシリーズ」。出力電力は240Wで、外形寸法は
2インチ×4インチ×1.3インチ(50.8mm×101.6mm×32.8 mm)。

奥村 オープンフレーム・タイプのAC-DCコンバータ「CPS250-Mシリーズ」である(図5)。出力電力は250W(強制空冷)で、外形寸法は2インチ×4インチ×1.3インチ(50.8mm×101.6mm×32.8mm)と小さい。競合他社はまだ、3インチ×5インチ(76.2mm×127mm)品が主流だ。医療用電子機器の安全規格「IEC 60601」と、中国の安全規格「CCC/CQC」などを取得している。

小型化できた理由は何か。

奥村 部品点数の削減と、他社にはない高密度実装技術を駆使して小型化を実現した。新しい技術を採用しているが、生産数量が非常に多いので、コスト競争力は非常に高い。

3つめは何か。

非絶縁型DC-DCコンバータ・モジュール

図6: 非絶縁型DC-DCコンバータ・モジュール
「LGA80D」。出力は2チャネル用意しており、それぞれ最大40 Aを供給できる。
2チャネルの出力は、2フェーズ構成にして1つにまとめることが可能だ。
その際の出力電流は最大で80A。
外形寸法は、1インチ×0.5インチ×0.5インチ(25.4mm×12.7mm×12.7mm)。

奥村 非絶縁型DC-DCコンバータ・モジュール「LGA80D」である(図6)。FPGAやプロセッサなどの直近に実装して、それに電力を供給するPOL(Point of Load)である。出力は2チャネル用意しており、それぞれ最大40 Aを供給できる。2チャネルの出力は、2フェーズ構成にして1つにまとめことが可能だ。その際の出力電流は最大で80Aに達する。また、最大4つまで並列接続でき、320Aもの大電流出力も実現できる。

 出力電流が大きいものの、実装面積は1インチ×0.5インチ(25.4mm×12.7mm)と小さい。これが最大の特徴だ。実際の製品を見られた顧客からは20AクラスのPOLと間違われるほど小型である。実装方法を工夫することで大電流化と小型化を実現した。実装方法の工夫としては、例えば、インダクタとボード(基板)の間にある狭い隙間に部品を搭載したことが挙げられる。また、デジタル回路採用により、顧客での仕様設定、監視が可能な上、部品点数削減効果でコスト競争力も持ち合わせている。

実装面積は小さいが、実装高さは比較的大きい。

奥村 実装高さは0.5インチ(12.7mm)である。確かに比較的高いが、実用上は問題ないと考えている。主な用途である通信機器のボードで、最も背の高い部品はイーサネット用コネクタである。これよりは低い。従って、ボトルネックにはならないと考えている。

主な用途としては、どのような電子機器を想定しているのか。

奥村 最大出力電流である80Aの供給を必要とするFPGAやプロセッサ、ASICなどは、現時点ではあまり多くない。しかし40A×2チャネルの構成であれば、サーバーや通信/ネットワーク機器、ストレージ機器などで、比較的高い需要があるだろう。さらに現在、より大きな市場をターゲットに収めるべく、定電流出力の小型品の展開も検討している。

その他特長的な製品はあるか。

奥村 防塵防滴の規格を取得しているLCCシリーズや、最大24KWの出力が実現できるiHP、380Vバス出力ソリューションを実現できるオンボード電源等、今までカスタムでしか実現できなかった電源を、標準品としてラインナップしている。標準品採用による開発期間およびコスト削減に貢献できるソリューションを今後も提供していきたい。

製品のご紹介

商品名 商品説明 データシート
LGA80D-00DADJJ 80A出力POLモジュール
LGA80D-EVAL-KIT LGA80D 評価ボード
NPS63-M 60W 2×4 inch オープンフレームACDC (12Vout)
NPS65-M 60W 2×5 inch オープンフレームACDC (24Vout)
CPS253-M 250W (強制空冷) 2x4inch オープンフレームACDC (12Vout)
CPS255-M 250W (強制空冷) 2x4inch オープンフレームACDC (24Vout)
LPS363-M 360W (強制空冷) 3x5inchオープンフレームACDC (12Vout)
LPS365-M 360W (強制空冷) 3x5inchオープンフレームACDC (24Vout)
LCM300L-T-4 300W フロントエンドACDC (12Vout)
LCM300Q-T-4 300W フロントエンドACDC (24Vout)
LCM300W-T-4 300W フロントエンドACDC (48Vout)
LCM600L-T-4-A 600W フロントエンドACDC (12Vout)
LCM600Q-T-4-A 600W フロントエンドACDC (24Vout)
LCM600W-T-4-A 600W フロントエンドACDC (48Vout)