
CUI(シーユーアイ)社は、米国オレゴン州に本社を構える電子部品メーカーである。取り扱う製品は多岐に渡る。例えば、電源モジュールや、圧電/磁気ブザー、マイクロフォン、コネクタ、ケーブル、回転(ロータリ)エンコーダ、ステッピング・モーター、サーボ・モーター、冷却用DCファン、ヒートシンク、ペルチェ素子などである。
現在、その同社が日本市場での開拓に力を入れているのが回転エンコーダだ。回転エンコーダは、機械的な動きを電気信号に変換する電子部品であり、モーション・コントロール用途では不可欠な存在である。主なアプリケーションとしては、オートメーション機器や工業用プロセス機器、産業用ロボットなどが挙げられる。そこで今回は、同社の回転エンコーダ担当者に、同社の製品の特徴や、採用時に得られるメリットなどについて聞いた。
まずは、御社が製品化している回転エンコーダ「AMTシリーズ」について説明してほしい。
CUI AMTシリーズは、堅牢性に優れ、検出精度が高いことが特徴のモジュラー・エンコーダである。インクリメンタル型とアブソリュート型、コミュテーション型という3つのバージョンを用意している。いずれも静電容量を利用した検出技術を採用する。いわゆる静電容量式だ
一般に産業用途では、周囲環境が比較的劣悪であり、エンコーダは汚れやほこり、油といった環境の影響を受けやすい。しかし、AMTシリーズにはそうした環境による影響を受けにくくする工夫を施している。動作温度範囲は−40〜+125℃と広い。このほか、検出精度が高く、組み立てが簡単で、消費電力が低いというメリットを兼ね備えている。産業機器やオートメーション機器、産業用ロボット、再生可能エネルギー対応機器などのさまざまなアプリケーションにおいて、強力なソリューションになるだろう。
AMTシリーズで用意している製品を具体的に教えてほしい。
静電容量方式には多くのメリット
現在、回転エンコーダでは、光学式の採用が一般的だ。光学式と比較しながら、静電容量式の回転エンコーダの仕組みを説明してほしい。
CUI 光学式エンコーダは、非常に小型のLED(発光ダイオード)を使う。そして、特定の間隔でノッチを設けたディスクを用意し、このノッチ からLED光を出力させる。ノッチの間隔でエンコーダの分解能が決まる。ノッチを通過したLEDの出力光は、受光器に入力されて電気信号に変換され、その後位置データとして出力される。
一方、AMTシリーズで採用した静電容量式も、その仕組みは光学式に似ている。ただし、LEDの出力光ではなく、電界を利用する。光学式で使うディスクの代わりになるのは、電界を変調するプリント基板(PCB:Printed Circuit Board)ローターである。このPCBローターには、金属配線による正弦波パターンが作り込まれており、ここを電界が通過すると変調を受ける。変調信号の受信先は、専用ASICを介してトランスミッタに戻され、ここで元の信号と比較されます。MCUが搭載された多くのAMT製品において、ASICの性能はさらに向上しています。
こうした設計を採用したため、静電容量式エンコーダであるAMTシリーズは、市販されている競合他社のエンコーダと比較すると、はるかに高い精度と柔軟性が得られる。PCBローターは高い位置精度が得られるように設計した。この高いベース分解能により、ASICおよびMCUは、お客様がソリューションとして選択する広範な最終分解能を計算的に引き出すことができます。分解能は、ASICもしくはMCUで設定するため、1つの部品を購入するだけで多様な分解能に対応可能である。
光学式エンコーダを静電容量式エンコーダに置き換える場合、それを搭載する電子機器(システム)に変更を加える必要があるのか?
CUI インクリメンタル型の静電容量式エンコーダの出力信号波形は、光学式エンコーダと同じ特性を持つ。このため、ただ単に置き換えるだけで移行できる。AMTシリーズのインクリメント型エンコーダは、インデックス・パルス信号に加えて、直交位相A/B信号が出力される。これらは回転方向を示すための信号で、位相は互いに90°ずれている。5V振幅のロジック信号波形である。
実際のところ、静電容量式エンコーダであるAMTシリーズは、光学式エンコーダを使う場合に比べて、外付け部品を減らすことができる。多くのエンコーダは、出力トランジスタのコレクタを浮かせる(ハイレベルでも、ローレベルでもない)オープン・コレクタ出力を使う。従って、エンコーダを動作させるには、プルアップ抵抗器を外付けして、信号を電源電圧に引き上げなければならない。その後、アクティブ出力が信号を引き下げて、パルス出力のオン/オフを切り替え、必要とする方形波を生成する。ところが静電容量式エンコーダであるAMTシリーズはすべて、方形波の生成に外付け部品が必要ないCMOSプッシュプル出力を採用している。このため外付け部品を減らすことが可能だ。
このほか、CMOSプッシュプル出力の利点として、入力信号との互換性があることも挙げられるだろう。
AMTシリーズは、堅牢性について、詳しく説明してほしい。
CUI AMTシリーズは、静電容量式を採用しているため、非常に堅牢性が高い。光学式エンコーダは、耐久性と耐用年数という2つの課題を抱えていた。光学式ディスクは、通常、ガラスを材料に用いているため、使用時には慎重に扱う必要があり、衝撃や振動に対する耐久性はあまり高くない。さらに、汚れや粒子がディスクに付着して光の進行を妨害すると、信号品質が劣化してしまう。加えて、光学式エンコーダで使用するLEDは、常時間使用すると光出力が低下する。経年劣化の影響を受けやすい。
一方で、静電容量式を採用するAMTシリーズは、こうした問題は一切ない。静電容量式を採用しているため、LEDは不要で、見通し経路の確保も必要ない。PCBローターが自由に回転できる限り、送信と受信の間に非導電性粒子の有無にかかわらず、送信側から受信側に電界を送ることができる。つまり、産業機器が使われる周囲環境にほこりやちり、汚れなどが存在しても、AMTシリーズはまったく影響を受けない。
もちろん、ガラス製のディスクが不要なため、耐久性は非常に高い。ただし、落下や振動、衝撃に対しては、特性が劣化する危険性がある。衝撃試験と振動試験の詳細は、データシートで確認してほしい。
AMTシリーズに回転寿命は存在するのか。
CUI AMTシリーズには、摩耗する構成部品が1つもない。つまり回転数に限界がないということだ。