~Maker Interview~

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IoT機器に不可欠なAFE回路、設計工数を低減するプログラマブル・チップ登場

※このインタビュー記事は、2016年9月に掲載した内容です。

村澤名前氏 村澤学 氏

 リアルな世界で起きた物理的な現象をアナログ値としてセンサで検出し、デジタル信号に変換した後、マイコンで処理してから無線通信チップでクラウドにアップする。これがIoTセンサ・モジュールの基本的なシステム構成だ。この構成の中で特に注目度が高いのは、センサと無線通信チップだろう。このため、世界のエレクトロニクス企業において、より高い性能、より低い消費電力、より小さな外形寸法を目指した技術開発が日夜進められている。

 その一方で、センサとマイコンの間を橋渡しする「アナログ・フロントエンド(AFE)」に対する注目度は比較的低い。その理由は、AFEは「縁の下の力持ち」的な位置付けにあるからだろう。しかし重要度は、センサや無線通信チップに負けず劣らず高い。AFEを的確に設計できなければ、IoTセンサ・モジュールの性能を高めることができず、その設計に手間取れば最適なタイミングに市場投入できなくなってしまうからだ。

 従って、IoTセンサ・モジュールの開発現場では、高性能でありながら、設計が簡単なAFEチップへの需要は強い。そこで米サイプレス・セミコンダクタ社は、プログラマブルなAFEチップ「PSoC Analog Coprocessor」を市場に投入した。このチップの特徴や主なアプリケーションなどについて、Cypress Semiconductor社のマイコン事業部 マーケティング部で主任を務める村澤学(むらさわ・まなぶ)氏に聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

「PSoC Analog Coprocessor」とは、どんなものか簡単に説明してほしい。

村澤 PSoC(Programmable System on Chip)プラットフォームを活用したアナログ・フロントエンド・チップ(AFEチップ)である。PSoCには、CPUやフラッシュ・メモリのほか、プログラマブルなロジック回路ブロックやアナログ回路ブロックを搭載しており、ユーザが手元で各回路ブロックの特性や接続を設定できる点が特徴である。PSoC Analog Coprocessorでは、アナログ回路ブロックを重視した設計を採用しており、非常に多くのアナログIPを盛り込んだ。PSoCプラットフォームを利用したチップの中では、最も多くのアナログIPを搭載した製品である。

どのようなアナログIPを搭載したのか。

PSoC Analog Coprocessorに搭載した機能

図1: PSoC Analog Coprocessorに搭載した機能

村澤 UAB(Universal Analog Block)の中にΔΣ(デルタ・シグマ)型14ビットA-Dコンバータと13ビット電圧出力D-Aコンバータ、アナログ・フィルタ、逐次比較(SAR)型の12ビットA-Dコンバータや4個のオペアンプ、2個のコンパレータ、シングル・スロープ型の10ビットA-Dコンバータ、38チャネル入力対応のアナログ・マルチプレクサ、静電容量性タッチセンサ「CapSense」向け7ビット電流出力D-Aコンバータなどを搭載している(図1)。これらのブロックを内部で自由に接続して利用することができる、いわば「アナログ・リッチ」なPSoCだ。

マイコンも搭載

CPUやフラッシュ・メモリは、どのようなものを搭載したのか。

想定するアプリケーション

図2: 想定するアプリケーション

村澤 過去に、当社が製品化したアナログ・リッチなPSoCとしては「PSoC 5LP」があり、CPUには英ARM社の「Cortex-M3」を搭載していた。一方、今回のCPUは「Cortex-M0+」であり、ロジック部はコンパクトになっている。プログラム格納用フラッシュ・メモリの容量は32Kバイトと小さい。

主なアプリケーションは何か。

専用ツールでアナログ回路をチューニング

図3: 専用ツールでアナログ回路をチューニング
専用ツール「PSoC Creator」を使って、搭載したアナログ回路の接続や、
特性のチューニングなどを実行できる。

村澤 過去に、当社が製品化したアナログ・リッチなPSoCとしては「PSoC 5LP」があり、CPUには英ARM社の「Cortex-M3」を搭載していた。一方、今回のCPUは「Cortex-M0+」であり、ロジック部はコンパクトになっている。プログラム格納用フラッシュ・メモリの容量は32Kバイトと小さい。

そうしたアプリケーションで、CPUはどのように活用することを想定しているのか。

専用ツールでアナログ回路をチューニング

図4: センサの追加が容易に
PSoC Analog Coprocessorを使えば、ホスト・プロセッサのソフトウエアを
変更することなしに、センサを簡単に追加できる。設計に費やす時間は、
従来の約1/10に当たる4時間に短縮できると推測する。

村澤 大きく分けて2つのケースがあると考えている。1つは、すでに完成したシステムにセンサ機能を追加するケースだ。このケースでは、システムのCPUとして既にマイコンが搭載されており、プログラムもほぼ完成している。この段階で、マイコンのプログラムを変更するのは大変であり、現実的ではない。そこで、PSoC Analog Coprocessorに搭載したCortex-M0+コアは、チップ内部のアナログ回路の制御に専念することになる(図4)。  
もう1つのケースは、センサ入力を備えたシステムを新規に開発するケースである。このケースでは、集積した32Kバイトのフラッシュ・メモリにプログラムを格納できるのであれば、メインのCPUとして利用できる。

「デジタルの人」に使ってほしい

競合するアナログ半導体メーカーも、IoT用途に向けて、センサ入力用AFEチップを製品化している。こうした競合他社品との違いは何か。

村澤 とにかくPSoC Analog Coprocessorは、アナログ回路がリッチである。確かに、複数の競合他社がAFEチップを製品化しているが、これだけ多くのアナログIPを搭載した製品はほかにはない。さらに、入力チャネル数が38と多く、たくさんのセンサを接続できる点も違いであり、当社製品のメリットだと考えている。

 ロジック回路ブロックにも違いがある。基本的にCPUを搭載しているAFEチップは少数派だ。多くの競合他社品は、アナログ回路のみである。しかもPSoC Analog Coprocessorは、Cortex-M0+という高性能なCPUコアを搭載しているため、1チップ・マイコンに近い感覚で使える。こんなAFEチップは今までなかった。

競合他社品と違って、CPUや多くのアナログ回路を集積しており、性能が高い。価格で競合他社品と比較すると、どのような位置付けになるのか。

村澤 性能は高いが、価格は競合他社品に対して許容できる提案が可能と考えている。まずはユーザに手にとってもらい、評価してほしいと考えている。

数多くのアナログ回路を搭載しているため、オーバースペックだと感じるユーザもいるはずだ。今後、機能を削った製品の投入を考えているのか。

村澤 現時点では、具体的な計画はない。まだ製品を市場に投入したばかりだ。これからユーザの声に耳を傾けながら、次の製品展開を検討していきたい。機能を削った製品の要求が強ければ、対応する可能性もある。

PSoC Analog Coprocessorは、アナログ回路設計者とデジタル回路設計者のどちらが使うことを想定しているのか。

アナログ回路設計の敷居を下げる

図5: アナログ回路設計の敷居を下げる
センサ用アナログ・フロントエンド(AFE)回路を、1つのチップと
専用ツールだけで設計できる。複数のアナログICを組み合わせたり、
制御プログラムを記述したりする必要はない。
このためアナログ回路設計の敷居を大幅に下げられる。

村澤 「デジタルの人」に使ってもらいたい。オペアンプやA-Dコンバータなどのディスクリート部品を組み合わせてAFE回路を設計する作業は、あまりにも敷居が高すぎる。これをデジタル回路設計者にいきなり任せるのは難しいだろう。しかし、PSoC Analog Coprocessorであれば、敷居はだいぶ下がる。専用ツールを使って、入力する数値や接続する回路を変更することで、最適な特性に合わせ込める(図5)。ディスクリート部品では難しかったチャレンジが簡単にできるようになると考えている。

 PSoC Analog Coprocessorは、「アナログの人」にとってはマイコンの一つにすぎないかもしれないが、アナログ設計の裾野を広げることに貢献するだろう。アナログ回路設計者にもぜひ評価してもらいたい。

5つのセンサを載せた評価キットを用意

PSoC Analog Coprocessorの現時点での製品ラインアップを教えてほしい。

アナログ回路設計の敷居を下げる

図6: PSoC Analog Coprocessorの製品ラインアップ

村澤 大きく分けて2種類の製品群を用意している(図6)。一方はハイエンドの製品群で、オペアンプの搭載数は4個、CPUのクロック周波数は48MHz、フラッシュ・メモリの容量は32Kバイト、タイマ/カウンタ/PWM発生器の搭載数は8個である。DMAコントローラを搭載する。もう一方は、機能を若干削った製品群で、オペアンプの搭載数は2個、CPUのクロック周波数は24MHz、フラッシュ・メモリの容量は16Kバイト、タイマ/カウンタ/PWM発生器の搭載数は4個である。DMAコントローラは搭載していない。

 パッケージは、28ピンSSOPと48ピンTQFN、45ピンWLCSPを用意した。WLCSP品を用意したのは、小型センサ・モジュールへの実装に対応するためである。実装面積は3.68mm×1.975mmと小さい。

評価キットについて説明してほしい。

アナログ回路設計の敷居を下げる

図7: 5つのセンサを搭載した評価キット
人感センサ、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、
金属の近接を検出するインダクティブ・センサを搭載した。

村澤 評価キットには、PSoC Analog Coprocessorのほか、5種類のセンサを搭載した。具体的には、人感(モーション)センサ、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、金属の近接を検出するインダクティブ・センサの5種類である(図7)。PSoC Creatorをダウンロードしたパソコンに評価キットを接続すると、各センサから50ms/インターバルで測定値が送られてくるデモを準備した。また、サンプルプログラムもあわせて準備している。この評価キットを使うことで、PSoC Analog Coprocessorを簡単に試すことが可能になる。

インダクティブ・センサとは、どのようなものか。

村澤 プリント基板に印刷したコイルを使って、金属の近接を検出するものだ。当社独自技術で実現した。コイルには変調をかけた電流を流しておき、そこに金属が近づくと磁界が変化するため、コイルに流れる電流も変化する。この電流変化分を検出することで、金属の近接を検出する仕組みだ。例えばこのような技術は、製造ラインを流れてくる缶などの個数を自動的にカウントする用途などで利用できるだろう。

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