~Maker Interview~

メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
※最新の業界動向をお届けします。

太陽電池セル駆動のIoTデバイス向け評価キット、低消費電力化と豊富な機能で開発をサポート

※このインタビュー記事は、2017年10月に掲載した内容です。

マーケティング部 関根景太氏(左) ソリューション技術部 府川栄治氏(右)

 太陽光や振動、熱、電磁波などのエネルギーを電力に変換してから、電子機器を駆動するエナジー・ハーベスティング(Energy Harvesting)。無線センサー機器などをバッテリー・レス化するうえで極めて重要な技術である。2010年の前後には、実用化に向けた機運が大いに高まり、新聞や雑誌などで関連技術の話題がこぞって取り上げられた。さらに、エナジー・ハーベスティングに対応したさまざまなICが次々に製品化されたのもこの時期である。

 しかしその後、エナジー・ハーベスティング技術の実用化が想定していた以上に進んでいないという実情がある。その最大の理由は、太陽光や熱などから回収できるエネルギー量(電力量)は安定的ではないにも関わらず、そのエネルギーを使用するシステム側は、安定して動作しなければならないという設計上の難しさがあるからだろう。そもそも電力量が少なければ、無線センサー機器などの機能を動かすことができない。これでは、実用化は難しい。

 米サイプレス セミコンダクタ社は、「IoTを広く普及させるには、電源の問題を根本から解決するエナジー・ハーベスティングは不可欠なものである。」という。今回同社は、太陽電池で駆動するIoT対応機器の開発に向けた評価キット「CYALKIT-E04」を発売した。この評価キットを利用することで、エナジー・ハーベスティングが抱える課題をどの程度解決できるのか。サイプレス セミコンダクタ アナログ事業部 マーケティング部の関根景太(せきね・けいた)氏と、同事業部 ソリューション技術部の府川栄治(ふかわ・えいじ)氏に、評価キットの特徴や、性能、機能などを聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

エナジー・ハーベスティング技術の状況をどのように分析しているのか。

関根 エナジー・ハーベスティング技術は依然として、極めて重要な技術である。IoTデバイス(IoT対応機器)を広く普及させるには、電源の問題を解決する必要がある。数多く設置するIoT対応機器ひとつ一つに電源配線を施すわけにはいかない。バッテリーで駆動すれば、交換作業が問題になる。こうした電源にまつわる課題を根本的に解決するには、エナジー・ハーベスティング技術を採用するしかほかに選択肢はない。

エナジー・ハーベスティング技術を広く普及させるには、どのような対応策が必要と考えているのか。

関根 エナジー・ハーベスティングで得られるエネルギー量と、IoT対応機器が必要とする電力量の間に存在するギャップが大きいことが理由だろう。

 しかし技術は日々進化しており、この問題は徐々に解決されつつある。例えば、BLE(Bluetooth Low Energy)の送信時消費電流は、従来の15mAから現在は5mAに削減された。ギャップは、間違いなく埋まっている。あとは、電子機器の設計において貴重なエネルギーの使い方を工夫すれば、アプリケーションによっては十分安定動作が可能であり、採用できるレベルに到達していると言えるだろう。

消費電流は業界最小レベル

今回発売した評価キットは、どのような用途を想定したものか。

評価キットの概要

図1:評価キットの概要
評価キット「CYALKIT-E04」には、3つのボードを同梱した。2つの電源ボードとセンサー・ボードである。さらに、200luxの照度で55μWの出力が得られる太陽電池セルも提供する。

関根 太陽電池で駆動するIoTデバイス(IoT対応機器)の開発に向けたものである。

 この評価キットには、3つのボードを同梱した(図1)。そのうち2つが電源ボードである。それぞれに、当社のエナジー・ハーベスティング向けパワー・マネジメントIC(PMIC)である「S6AE102A」と「S6AE103A」を載せた。もう1つは、環境光センサーと磁気スイッチ(ドア開閉検知センサー用)を搭載したセンサー・ボードである。このほか太陽電池セル(ソーラー・セル)も併せて提供している。

 電源ボードに太陽電池セルとセンサー・ボードを接続し、当社が別途販売しているBLE対応無線通信ボード (CY8CKIT-042-BLE Pioneer kit)を接続すれば、IoTデバイスを簡単に実現できる。さらにセンサー・ボードには、温湿度センサー、人感センサーを実装するスペースを用意している。無線通信については、Arduinoに対応した入出力ポートを用意しているので、ここにBLE以外の無線通信方式に対応したボードを差し込むことも可能だ。サブGHzを使った無線通信方式や、各社独自の方式にも対応できる。

S6AE102AとS6AE103Aの特徴は何か。

パワー・マネジメントIC(PMIC)の内部構成

図2:パワー・マネジメントIC(PMIC)の内部構成
「S6AE103A」の内部構成である。+2.0〜5.5Vの太陽電池セルの入力のほか、バックアップ用のバッテリーを接続できる。出力電圧範囲は+1.1〜5.2V。静止時の消費電流は280nA、起動電力は1.2μWと少ない。ハイブリッド蓄電に対応した制御回路やパワー・ゲーティング用スイッチ、タイマー、コンパレータなどを集積した。

関根 太陽電池セルを使った駆動に最適化した点である。例えば、それぞれのPMICの静止時消費電流が280nAと極めて少ないことだ(図2)。この数字は、同種の製品の中では業界最小レベルである。

 さらに起動時に必要な電力が1.2μWと小さいことや、パワー・ゲーティング用スイッチを内蔵したことも特徴である。パワー・ゲーティング用スイッチを使えば、後段に接続した負荷(システム)との接続を完全に遮断できる。このため究極の消費電力化を図れる。

2016年に製品化した評価キットでは、PMICに「S6AE101A」を採用しており、静止時の消費電流は250nAと少なかった。

PMICの比較

図3:PMICの比較
「S6AE101A」と「S6AE102A」、「S6AE103A」の比較である。S6AE101A は静止時の消費電流が250nAと少ない。S6AE102AとS6AE103Aは280nAだが、ハイブリッド蓄電に対応する。

関根 S6AE101AとS6AE102A/S6AE103Aの基本的な役割は同じだ(図3)。太陽電池セルで発電した電力をキャパシタに蓄える役割を果たす。このキャパシタの端子電圧が、設定した電圧範囲(例えば、ローが1.8V 、ハイが3.3V)にあれば負荷(システム)に電力を供給する。電圧の安定化は、負荷(システム)側のLDOレギュレータなどで実行する。

 S6AE102AとS6AE103Aはこうした役割に加えて、いくつかの付加機能を搭載している。このため静止時の消費電流が30nA程増えている。

「ハイブリッド蓄電」に対応

付加機能とは何か。

ハイブリッド蓄電

図4:ハイブリッド蓄電
2つの外付けキャパシタに電力を蓄えることが可能だ。一方は、0.33Fと大容量キャパシタ、もう一方は300μFと小容量キャパシタを使う。小容量キャパシタは、システムの起動用に使う。その後、システムが稼働している間に大容量キャパシタに電力を蓄える。この大容量キャパシタの電力を使うことで、太陽光や照明光がなくなっても、システムは稼働し続けられる。

関根 「ハイブリッド蓄電」と呼ぶ機能だ(図4)。これは、容量が異なる2つのキャパシタを接続して、それぞれの蓄電を最適制御する機能である。

 この機能を搭載したメリットは非常に大きい。仮に、大容量キャパシタしか接続していないと、これに充電するために非常に長い時間を要してしまい、すぐにシステムを起動することができなくなる。容量にもよるが、2~6時間も掛かってしまう。

 そこでハブリッド蓄電では、小容量と大容量の2つのキャパシタを接続する。まずは小容量キャパシタを充電して、そのエネルギーにてシステムをすぐに起動させる。充電時間は数秒~数十秒で完了する。その後、発生する余剰エネルギーを大容量キャパシタに充電する。こうすることで、太陽光や照明光がなくなっても、大容量キャパシタに蓄えた電力を利用することで、システムは365日24時間稼働し続けられるわけだ。

アプリケーションから見たS6AE101AとS6AE102A/S6AE103Aの使い分けを教えてほしい。

関根 S6AE101Aでは、起動時間との関係もあり、大容量キャパシタは使えない。このため多くの電力を蓄えられないので、周囲が暗くなるとシステムは停まってしまう。従って、ショッピングセンターや空港など、夜間は営業しない場所に設置するIoTデバイスに向く。

 一方のS6AE102A/S6AE103Aは、大容量キャパシタを接続できるため、365日、24時間稼働するIoTデバイスを実現できる。一般住宅やオフィスなどに向けたIoTデバイスに最適だろう。

付加機能を使ってさらなる低電力化

S6AE102AとS6AE103Aの違いは何か。

関根 これも違いは搭載した機能にある。S6AE103Aの方が機能リッチである。具体的には、S6AE103Aにはタイマーとコンパレータを搭載した。

この2つの機能は、どう使うのか。

タイマー・パワー・ゲーティング

図5:タイマー・パワー・ゲーティング
タイマーを使って、パワー・ゲーティング用スイッチのオン/オフを制御する。オン時間とオフ時間は、外付けキャパシタで設定可能だ。

関根 タイマーはパワー・ゲーティング用スイッチと組み合わせることで、「タイマー・パワー・ゲーティング」を実現できる(図5)。これは、IoTデバイス全体の低消費電力化に効果を発揮する。

 例えば、IoTデバイスが数分に1回、BLEを使って測定データを無線送信するケースを想定する。このケースでは、BLEに常に電力を供給する必要はない。データを無線送信するタイミングのみ電力を供給すればよい。内蔵したタイマーは外付けキャパシタでオン時間とオフ時間を設定できる。これを使って、パワー・ゲーティング用スイッチを切り替えるわけだ。

 しかも、タイマー機能をPMICに内蔵した点が大きい。CPUを含むシステム側のスタンバイ電流は少ないものでも1μA~10μAを常に消費し続けている。これをスタンバイ時間の5分間消費した場合の総エネルギー量は990μJ~9900μJ(電圧3.3Vで計算)となり、BLEを1回送信するエネルギー(約90μJ)の11倍から110倍ものエネルギーを消費している計算となる。タイマー・パワー・ゲーティング機能を使用する事により無駄な消費をなくすことができる為、システム全体の消費電力を大幅に削減できるわけだ。

コンパレータの効果的な使い方を教えてほしい。

コンパレータを使った外部割り込み機能

図6:コンパレータを使った外部割り込み機能
人感センサーの出力をコンパレータに入力することで、外部割り込み機能を実現できる。

関根 コンパレータも、システム全体の消費電力の低減に役立つ。例えば、コンパレータの入力に人感センサーを接続する。こうすれば、人感センサーの出力をトリガーとして、システムを起動することが可能になる(図6)。人感センサーの出力がなければ、システムをシャットダウン状態にし続けられるため、機器全体の消費電力を大幅に削減できることになる。

発売した評価キットは、どのような技術者に使ってもらいたいと考えているか。

関根 IoTデバイスや無線センサー機器、ビーコンなどで、エナジー・ハーベスティング技術の適用を検討している技術者に使ってほしい。技術者のタイプはさまざま考えられる、なぜならば、IoTデバイスを開発するには、マルチな知識が求められるからだ。アナログ技術、デジタル技術、ファームウエア技術などが必要であり、最近ではファームウエア技術者が基板を設計したり、アナログ設計者がファームウエアを開発したりしている。つまり、今回の評価キットはさまざまな技術者に使ってもらえると考えている。

CYALKIT-E04 S6AE102A and S6AE103A Evaluation Kit

型番:CYALKIT-E04

エナジーハーベスティング技術を使った評価開発を
是非お試しください!