~Maker Interview~

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開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
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エナジー・ハーベスティングが実用領域へ、BLE対応のWSNデバイス用開発キットが登場

 米サイプレス・セミコンダクタ社は、エナジー・ハーベスティング技術で収集した電力で動作する無線センサー・ノード(WSN:Wireless Sensor Node)向けソリューションを提供中だ。同社のBLE(Bluetooth Low Energy)対応モジュール「EZ-BLE PRoC Module」と、パワー・マネジメントIC(PMIC)「S6AE101A」で構成されており、太陽電池セルとセンサーとを組み合わせることで無線センサー・ノードとして機能する(図1)。

 最大の特徴は、太陽電池で発電した電力だけで動作する点にある。商用電源から電力を供給しなくても、コイン電池や乾電池を外付けしなくても動作に支障は来さない。しかも寸法は1cm×1cmと極めて小さいWSNデイバスが実現可能だ。これは、どこにでもばら撒ける超小型で無電源のWSNデバイスを実現するソリューションとして、IoTのブレークスル―になり得る技術である。

 どのような技術やアイデアを適用することで、このソリューションを実現したのか。
その詳細をサイプレス日本法人のアナログ事業部 マーケティング部の関根景太(せきね・けいた)氏と、同事業部 ソリューション技術部の府川栄治(ふかわ・えいじ)氏、データコミュニケーション部門 マーケティングディレクターの山田祥之(やまだ・よしゆき)氏に聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

現在、エレクトロニクス業界において、最も期待を集めているのがIoT(Internet of Things)市場である。IoT市場の将来について、どのように見ているのか。

図1 1cm×1cmと小さいWSNデバイス
エナジー・ハーベスティング用PMIC「S6AE101A」と、BLEモジュール
「EZ-BLE PRoC Module」、直列ソーラー・セルを組み合わせて実現した。

関根 IoT市場には当社も、極めて高い期待を掛けている。その中で、WSNデバイスは、IoT市場におけるキーデバイスの一つと考えている。住宅やビル、工場、街などの至るところに設置する、センサーや無線通信回路を搭載したWSNデバイス(IoTデバイス)の市場規模は、2015年には5億個程度だったが、2020年には50億個まで拡大する市場予測もある。ただし、未来の視界は完全に良好というわけではない。WSNデバイスに関する技術的な課題がいくつか残っているからだ。

電気配線レス、バッテリーレスは必要不可欠

それは、どのような問題なのか。

関根 いわゆる「IoTの電源問題」だ。つまり、WSNデバイスにどうやって電力を供給するのかという問題である。

 商用電源から供給する場合は、1つ1つのWSNデバイスに対して電気配線の工事が不可欠になる。これは現実的ではない。2020年にはWSNデバイスは50億個も設置されると予測されているからだ。コイン電池や乾電池を使うという手法もある。この場合は、定期的な電池交換が必要になる。50億個ものWSNデバイスの電池交換は、極めて大きな人件費が掛かかる。これも現実的ではない。従って、IoTを広く普及させるには、電気配線レスとバッテリーレスが必要不可欠な条件となる。

 それでは、どうすればいいのか。そこで、問題解決の手法として注目されているのがエナジー・ハーベスティング技術である。これは、光や振動、電波、熱など、周囲環境の中にあるエネルギーを収集して、センサー機能や無線通信機能を動かす電力として利用する技術である。この技術を活用できれば、電気配線レスとバッテリーレスを実現できる。

 しかし、これまでのエナジー・ハーベスティング技術は、実力不足と言わざるを得ない状況にあった。いずれのエネルギー源を使っても、あまり多くの電力を収集できず、無線センサー・ノードを駆動するには不十分だったからだ。

最適化の具体的な内容は。

関根 もともとエナジー・ハーベスティング用途に向けたパワー・マネジメントIC(PMIC)は5年前より企画、開発に取り組んでいたが、2013年に、光と熱、振動といったエネルギー源をカバーするPMIC「MB39C811」と、光と熱に対応できるPMIC「MB39C831」を製品化した。これらのPMICは、複数の発電素子に対応する汎用性を重視しており、いずれも製品化した当時は、業界に大きなインパクトを与えたと自負している。

 しかし、発電素子の出力は種類、発電の状態にもよるが、出力電圧(起電圧)が0.5V以下と極低電圧になるケースや、10数Vの交流電圧になる場合がある。一方、無線通信回路などの駆動には、3V程度が必要だ。そのため、PMICには0.5V以下の極低電圧を3V程度に昇圧するスイッチング方式のDC-DCコンバーターや、10数Vの交流電圧を整流しながら降圧するDC/DCコンバーターが必要だった。発電素子の発電電力量は非常に微小であり、これらDC/DCコンバーターの超低消費電力化は必須である。また、一般的には昇圧型DC-DCコンバーターの変換効率は非常に悪い。言い換えれば、電力損失が大きい。これを何とかしなければならない。

 そこで対象とする発電素子を見直した。さまざまな調査の結果、入手性が圧倒的に高いのは太陽電池セルであることが分かった。使い勝手も実用性も圧倒的に高い。発電電圧が低いという問題も、複数のセルを直列に接続すれば、簡単に解決できる。実際のところ、複数のセルを直列接続した素子(直列ソーラー・セル)が製品化されており、簡単に入手できる。今回のPMICでは、発電素子をこの直列ソーラー・セルに絞った。

無駄なものをそぎ落とす

PMICにDC-DCコンバーターは使用していないのか。

図2  エナジー・ハーベスティング用PMICの内部構成

関根 DC-DCコンバーターは使用していない。PMIC内部のスイッチを制御して、直列ソーラー・セルで発電した電力を外付けのキャパシタに蓄える(図2)。このキャパシタの端子電圧が、設定した電圧(例えば、ローが2.6V 、ハイが3.3V)の範囲にあれば、内蔵のパワー・ゲーティング・スイッチがオンに切り替わり、負荷に電力を供給する仕組みである。無駄なものをすべてそぎ落とすことで、今回の回路構成になった。

負荷に供給する電圧の安定化制御は行わないのか。

関根 PMICでは、安定化制御は実行しない。後段に接続するBLEチップはそもそも、Liイオン2次電池を入力源に想定しており、1.8〜5.5Vと幅広い電源電圧範囲に対応している。そのためLDOレギュレータを内蔵している。これを使って、電圧の安定化を実行している。

この電力変換/安定化方式では、どの程度のメリットが得られるのか。

関根 そのメリットは、はっきりと数字で現れている。PMICの静止時の消費電流は250nAで、待機状態から起動する際に必要な起動電力は1.2μWである。いずれの値も、DC-DCコンバーターを使う競合他社のPMICに比べて、大幅な削減を実現している。特に起動電力の削減効果は大きい。1cm×1cmと小型の直列ソーラー・セルでも、PMICを起動することが可能になった。

このほかには、どのような特徴があるのか。

図3 エナジー・ハーベスティング用PMICの品ぞろえ

関根 コイン電池や乾電池の使用を可能にするマルチプレクサを搭載していることも特徴の1つと言えるだろう。つまり、直列ソーラー・セルの補助電源として、コイン電池や乾電池が使えることにある。周囲が暗くなり、直列ソーラー・セルが発電できない場合でも、データを送信し続けることが可能になる。高い信頼性が求められるWSNデバイスに有効な機能だ。

府川 現在製品化しているPMICは「S6AE101A」のほかに、「S6AE102A」と「S6AE103A」もある(図3)。基本機能は、3つの製品とも同じだが、S6AE102AとS6AE103Aの方が搭載した周辺機能が多い。具体的には、小型キャパシタと大型キャパシタに自動的に蓄電するハイブリッド蓄電制御回路や、LDOレギュレータ、CRタイマー、コンパレータなどである。このため、静止時の消費電流は280nAと若干大きい。S6AE101Aのパッケージは、実装面積が3mm×3mmの10ピンSON。S6AE102AとS6AE103Aは、実装面積が4mm×4mmで、それぞれ20ピンQFNと24ピンQFNである。
 今回、チップワンストップにおいて販売するソリューションは、S6AE101AとBLEモジュール「EZ-BLE PRoCモジュール」を組み合わせたものだ。

業界トップクラスの低消費電流

今回採用したBLEモジュールの特徴は何か。

図4 BLEモジュールの内部ブロック図

山田 「EZ-BLE PRoC Module」は、当社の第1世代品に当たるBLEチップを搭載している(図4)。このBLEチップの特徴は、平均消費電流が17.1μAと低い点にある。第2世代品へのマイグレーションを検討しているが、こちらはさらに9μAまで削減した(図5)。

第1世代のBLEチップは、ピーク消費電流はそんなに低くない。しかし、静止時の消費電流が極めて低いという特徴がある。このため、平均消費電流が低いわけだ。第2世代品ではピーク電流も低減することによって、上述したような業界トップクラスの平均消費電流を実現した。 パッケージ寸法は1cm×cmと小さい。これも業界トップクラスだ

国内の技適(技術基準適合)は取得済みか。海外についてはどうか。

山田 もちろん、日本の技適は取得済みだ。海外についても、電波規制(レギュレーション)が必要な主要4か国に対応している。

EZ-BLE PRoC Moduleはプログラマブルなチップだが、その設計ツールの使い勝手はどうか。

図5 消費電流を大幅削減
「EZ-BLE PRoC Module」には、第2世代のBLEチップを搭載した。この第2世代品は、第1世代品に比べて消費電流を大幅に削減した。第1世代品の平均消費電流は17.1μAだったが、第2世代品では9μAと少ない。

山田 設計はとても簡単だ。設計ツールとしては、当社の「PSoC Creator」が対応する。競合企業の中には、複数のツールを渡り歩かないと設計できないケースがあるが、当社は1つのツールだけで作業が完結する。しかも、使い勝手は極めて高い。

BLEチップの今後の製品展開について教えてほしい。

山田 「より遠くへより速く」を実現するためにBluetooth Smart Meshに準拠したメッシュネットワークに対応した製品、開発キットを準備している。すでにデモレベルでは今年のCESで展示している。Bluetooth Smartはいわゆるモノとのつながり(IoT:Internet of Things)に最も適しているといえるが、この技術をさらに発展させ、低消費電力かつ高速に、さらに遠い地点との通信を実現することが可能となる。この結果、さまざまな新しいアプリケーションが登場するだろう。

キャンペーン情報

サイプレスは、このS6AE101A PMICとBluetooth® Low Energy接続用EZ-BLE™ PRoC™ Moduleを組み合わせた開発キットも提供しています。設計に必要なソフトウェアも同梱しており、このキットを利用するとBLE接続も可能なソーラーパワーのIoTデバイスを容易に設計できます