
自動車にとって、センサーは欠くことができない存在だ。すでに、ステアリングやペダルなどの位置検出や、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能における車輪の回転速度検出、エアバッグ用の衝撃検出など、さまざまなセンサーが活用されている。
今後、電気自動車(EV)や、ハイブリッド車(HEV)、燃料電池車(FCV)といった電動化された自動車が普及すると予測されている。こうした自動車では、半導体や電子部品などの搭載数量は一気に増える。もちろん、センサーも同様だ。それだけに、センサー市場に熱いまなざしを向ける半導体メーカーは少なくない。独Infineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ)社もその1社である。
同社はすでに、多くのセンサー製品を市場に投入しており、高いシェアを獲得している。今回は、インフィニオン テクノロジーズ ジャパンのオートモーティブ事業本部 パワートレイン&エレクトリックヴィークル セグメントでシニアスペシャリストを務める菅原一誠(すがはら・いっせい)氏に、車載機器/産業機器向けセンサー市場の動向や、同社の最新製品などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。
現在、インフィニオン テクノロジーズ社は、車載機器向けセンサー市場において、どのような位置付けにあるのか。
菅原 そもそも当社は、車載機器向け半導体市場で高いシェアを確保している。2016年に市場シェアは10.7%であり、これは業界第2位である。つまり、非常に強い影響力を有しているわけだ。
製品別で見ると、マイコンは業界第4位で、パワー半導体は第1位、そしてセンサーは第2位である。自動車に必要な半導体製品はほぼすべて取りそろえており、当社の製品だけで自動車の制御システムを構築できるほどだ。
車載機器向けセンサーとは、具体的にどのような製品があるのか。
菅原 当社が製品化しているのは、磁気ポジション・センサーや3次元(3D)磁気センサー、磁気速度センサー、磁気電流センサー、圧力センサー、3Dイメージ・センサーなどである。1台の自動車に約20個のセンサーが搭載されている(図1)。
このようなセンサーを具体的にどのように使われているのか。例えば、磁気ポジション・センサーや3D磁気センサーは、ワイパー、ペダル、ステアリング、スロットルなど、動く機械部品の位置を検出する用途で使われている。磁気速度センサーは、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)を構成する1つの部品として、車輪の速度を測定する用途で用いられる。さらに圧力センサーは、エンジンを制御する際に欠かせない吸気圧を測定したり、エアバッグを起動するか否かを決めるドア内圧の変化を検出したりする用途で採用されている。
こうした車載機器向けセンサーの市場シェアは、どのくらいか。
菅原 磁気ポジション・センサーは業界で5〜6位、ABS向け磁気速度センサーは業界1位、エンジンの吸気圧測定に向けた圧力センサーでは業界2位と、いずれも高いシェアを獲得している。
磁気速度センサーは、どのような測定原理を採用しているのか。
菅原 従来は、ホール効果素子を利用した製品を投入していたが、最近では巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magneto Resistive effect)を利用した素子(デバイス)が登場している。GMR素子を使えば、高感度や高い再現性などを実現できるため、高性能な磁気速度センサーを実現できる。
圧力センサーの市場シェアが高い理由は何か。
菅原 コストが低く、小型で、信頼性が高いことが理由だ。こうした特徴が得られるのは、当社の圧力センサーは表面マイクロマシーニング技術を使った静電容量検出方式を採用しているからだ。競合他社が採用しているピエゾ抵抗方式は、バルクのマイクロマシーニング技術が必要で、ダイヤフラムなどを作り込むために特殊なエッチング技術が必要になる。しかも、2チップ構成になる場合が多いため、コストが高くなり、パッケージ寸法が大きくなってしまう。
表面マイクロマシーニング技術であれば、一般的なBiCMOS技術で製造できる。このためコストを削減できると同時に、小型パッケージに収められる。さらに、大きな圧力に対する信頼性も確保しやすい。
小型で高精度な電流センサー
最近発売した製品の中で、特徴的なものを紹介してほしい
測定精度が高い理由は何か。
どの程度の大きさの電流を測定できるのか。
菅原 最大で50Aの電流を測定できる。これ以上大きな電流の測定については、電流による発熱を考慮しなければならなくなるため、7mm×7mm×1mmのパッケージでは実現は難しいだろう。恐らく、もっと大きなパッケージを採用する必要がある。
主な用途は何か。
菅原 LI4970は、産業機器やコンピュータ機器などに向けた製品である。TLE4970は車載機器に向けた製品で、品質規格「AEC Q-100」に準拠している。主な用途としては、データセンターに設置するブレード・サーバーやバッテリー充電器、電動工具、電動アシスト自転車などを想定している。
EVやHEVなどに搭載する3相モーターの電流測定用途はどうか。
菅原 TLI/E4970で対応するのは難しいと考えている。その理由は応答時間にある。今回の製品の応答時間は100μs程度だ。2個のホール素子で検出したデータを、DSPで処理して測定精度を高めているからだ。この処理にある程度の時間がかかり、それが遅延時間となる。3相モーターの駆動/制御には、数μsと短い応答時間が求められるため、今回のセンサーでは対応は難しい。
現状では、シャント抵抗による電流測定方法を使う必要があるだろう。ただしシャント抵抗では、消費電力は発熱が問題になる。もちろん当社はすでにこうした問題を把握しており、問題を解決できるセンサーの開発に着手している
このほかの特徴は何か。
菅原 TLI/E4970の最大測定電流は50Aだが、25Aに対応した製品も用意している。絶縁耐圧は2.5kVを確保する。初期の測定精度は1%だが、全動作温度範囲と製品寿命にわたる測定精度は1.6%を保証する。測定分解能は12.5mA/LSB。出力は16ビット分解能のデジタル形式で、SPIインターフェースを介して出力する。
さらに「Current Sensor 2Go Kit」と呼ぶ評価キットを用意している(図4)。センサーを実装したボードとパソコンをUSBで接続することで、無償で提供しているGUIツールを使って測定データを可視化したり、パラメータを設定したりすることが可能になる。
消費電力化が可能な3D磁気センサー
3D磁気センサーとは、どのような製品なのか。
菅原 3D磁気センサー「TLV493D-A1B6」は、X軸測定とY軸測定、Z軸測定に向けたリニア・ホール素子を1つのチップ上に作り込んだセンサーだ。空間にある磁石の位置を検出して、デジタル信号としてI2Cインターフェースを介して出力する。
X、Y、Z軸に対応したリニア・ホール素子をどうやってチップ上に作り込むのか
3D磁気センサーの最大の特徴は何か。
菅原 複数の動作モードを用意している点だ。例えば、更新レートが10Hzのウルトラ・ロー・パワー・モードの消費電流は10μA、更新レートが100Hzのロー・パワー・モードは100μA、更新レートが3300Hzのファスト・モードは3.7mAである(図5)。ファスト・モードの3.7mAという消費電流は、競合他社品と同レベルだが、あらかじめ用意した動作モードを有効に活用することで、消費電力の低減が図れる。
さらに、小型であることも特徴として挙げられる。パッケージは外形寸法が2.9mm×1.6mm×1.1mmの6ピンTSOPである。
どんな用途を想定しているのか。
菅原 例えば、電子玩具や、スマートメーター、家電機器のボタン/ボリュームなどを想定している。
スマートメーターでは、不正検出に使える。スマートメーターに磁石を近づけると、正しく測定できなくなる恐れがある。そこで今回の3D磁気センサーを内蔵しておき、磁石の接近を常時監視する。こうすることで不正の有無が分かるわけだ。
磁界(磁束密度)の測定範囲や、測定分解能はどの程度なのか。
3D Magnetic Sensor 2GO Kit

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