~Maker Interview~

メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
※最新の業界動向をお届けします。

I2Cバス関連製品の未来は「視界良好」、低電力/低コスト化への要求増で活躍の場広がる

岡野彰文氏 岡野彰文 氏

 マイコンやメモリー、ASIC、アナログICなどのさまざまな半導体チップに採用されているシリアル・バスである「I2C(Inter-Integrated Circuit)」。いまや、これを知らない電子技術者はいないと言っていいほど広く普及している。

 I2Cバスが市場に初めて登場したのは、1980年代後半と古い。開発したのはオランダのロイヤル フィリップス社(現在のNXPセミコンダクターズ社)である。その後、数々の高速化や仕様拡張を経て、現在に至っている。

 今回は、NXPセミコンダクターズジャパンにおいて、I2Cバス関連製品を担当している岡野彰文氏(P&C テクニカルエキスパート)に、現時点におけるI2Cバスの主な用途や、I2Cバス関連製品の品ぞろえ、活用方法のアイデアなどについて聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

I2Cバスは、1980年代後半に開発された技術だが、当時はどのような用途に使われていたのか。

岡野彰文氏

岡野 実用化当初は、テレビやラジオのチップセットに採用された。主な用途は、プリント基板上でのインターフェースである。ホストとなるマイコンと、可変容量コンデンサ(バリコン)に代わるチューナーチップやボリュームなどの周辺チップを接続し、周辺チップをデジタル制御していた。こうして表示画面の調整や音量の調整などを自動化していた。

 I2Cバスの市場が急拡大したのは、リモコンの普及がきっかけだ。マイコンとリモコン・モジュールを接続する用途にI2Cバスが使われた。非同期を採用するUARTとは異なり、I2Cバスはデータとクロックを伝送する2線式のバスである。このため、非常に使いやすい。このことが高く評価され、多くの電子機器メーカーがI2Cバスを採用した。

I2Cバスは低速とのことだが、実際のデータ伝送速度はいくつか。

岡野 実用化当初のデータ伝送速度は、標準モードが100kビット/秒だった。

 その後、標準規格のバージョン・アップが行われ、データ伝送速度を次第に高められている。例えば、1992年にはバージョン1.0が策定され、データ伝送速度は400kビット/秒(ファストモード)に高められた。

 1998年にはデータ伝送速度は3.4Mビット/秒(ハイスピードモード)のバージョン2.0が登場。2007年には、データ伝送速度は1Mビット/秒(Fm+)だが、駆動能力を従来の3mAから20mAに高めたバージョン3.0が策定された。最新の規格は2012年に標準化されたバージョン4.0で、データ伝送速度は5Mビット/秒(UFm)まで高められている。

こうした新しい標準規格の登場によって、用途に変化はあるのか。

岡野 前述のように、当初は、プリント基I/Oエクスパンダ板内における半導体チップの接続に使われていた。しかし、規格のバージョン・アップでデータ伝送速度と駆動能力が高まったことによって、プリント基板の間や、電子機器の間の接続に使われるようになっている。最近、採用事例が多いのは、アミューズメント機器である。LEDを使った電飾の制御/駆動や、モーターを使った可動部の制御/駆動などに使われている。

13種類の製品ポートフォリオ

I2Cバスに対応した半導体チップには、どのような製品が用意されているのか。

岡野彰文氏

岡野 I2Cバスの関連製品は、非常に多くの種類がある。具体的には、I/Oエクスパンダ、バス・バッファ、レベル・トランスレータ、マルチプレクサ/スイッチ、LEDドライバ、温度センサ、リアルタイム・クロック、DIPスイッチ、プロトコル・ブリッジ、近接容量センサ、液晶ドライバ、ステッピング・モーター・コントローラの13種類である。製品ポートフォリオについては、当社がI2Cバスの開発元だけに、業界随一を誇っている。

まずは、I/Oエクスパンダの役割や特徴などを説明してほしい。

岡野 I/Oエクスパンダは、マイコンなどの汎用入出力(GPIO)の端子数が足りないときに使うものだ。複数のGPIOを束ねて、I2Cバスにつなぐ。こうすれば、1本のI2Cバスで複数本のGPIOに対応できる。実際の電子機器設計の現場では、「GPIOが足りない」という問題に遭遇するケースは少なくない。この問題をたった1個のICで解決できる。とても便利なICだ。

 当社のI/Oエクスパンダは、4?40ビットのGPIOを備える。各端子は、疑似双方向出力とトーテムポール/プッシュプル出力、オープンドレイン出力に対応しており、ユーザーがプログラム可能だ。このため、あらゆるマイコンに適用できる。

 さらに最新製品である「PCAL6408Axx」では、「アジャイルI/O」と呼ぶ機能を搭載している。これは、出力(駆動)電流や入力ラッチ、オープンドレイン制御などのユーザー設定を可能にするものだ。例えば、出力電流であれば、バッテリ駆動機器に使用する場合や、EMI(放射のノイズ)の規制値をクリアできない場合などは、必要最小限に設定して、消費電力やEMIによる悪影響を抑えるといった使い方が可能になる。

バス・バッファは、一般的な標準ロジックでも製品化されている。標準ロジックでは代替できないのか。

岡野 バス・バッファは、I2Cバスのマスター・デバイスとスレーブ・デバイスを接続する際に、駆動能力を高めることなどで両者のつなぐ配線長を延ばす用途で使われる。こうしたI2Cバスに対応したデバイス同士を接続するケースでは、回路設計に工夫が必要になる。両者ともオープンドレイン出力で、低(ロー)レベルのときは、お互いに電流を引っ張ってしまう。従って、標準ロジックでは動かない。この問題を解決するには、たとえデジタルICでも、アナログ回路のノウハウが必要になる。バス・バッファで駆動能力が高い製品としては,60mAに対応した「PCA9601/PCA9646」がある。

I2Cバス搭載でマイコンの負荷を軽減する

LEDドライバやステッピング・モーター・コントローラがI2Cバスの製品ポートフォリオに含まれているが、それぞれI2Cバスが搭載されている理由を説明してほしい。

岡野 そもそもセットトップ・ボックスなどのパイロット・ランプ(電源のオン/オフ表示など)では、GPIOを使ってLEDを駆動していた。しかし最近では、LED表示も高度化しており、フルカラー化が求められる場合がある。フルカラーでは、1画素駆動するのにGPIOが3チャネル必要だ。複数の画素が存在すれば、すぐにGPIOが足りなくなる。I2Cバスを搭載したLEDドライバを使えば、この問題を簡単に解決できる。

 しかも、このLEDドライバには、PWM信号出力機能も搭載している。このため複雑なフルカラー画像を表示することも可能だ。出力電圧については、最大40 V品を用意している。LEDを複数個直列に接続したストリングも駆動できる。

 ステッピング・モーター・コントローラにI2Cバスを搭載した理由は、マイコンの負荷を軽減することにある。複数のステッピング・モーターを駆動する場合、それぞれに対してマイコンからパルス信号を出力する構成を採用すると、マイコンの処理負荷が重くなってしまう。そこで、I2Cバス搭載のステッピング・モーター・コントローラ「PCA9629A」の出番となる。マイコンとはI2Cバスで接続するだけでステッピング・モーターを制御/駆動できる。さらに、ステッピング・モーターの動作を決めるパルス・パターンをプログラムできるため、マイコンの負荷を大幅に削減できる。

温度センサとリアルタイム・クロックについては、どうか。

岡野 温度センサに搭載したI2Cバスの役割は、測定した温度データをデジタル値で出力することにある。つまり温度センサには、A-Dコンバータを搭載しているわけだ。測定精度が±2%の定番品「LM75B」と±1%精度の「PCT2075」などを用意している。

 リアルタイム・クロックは、消費電力をできる限り減らすことが求められる電子機器に向けたものだ。通常、マイコンにはリアルタイム・クロック機能が搭載されている。しかし、この機能を利用すると消費電力が比較的大きくなってしまう。そこでディスクリートのリアルタイム・クロックを外付けすることが多い。ディスクリート品であれば、製造プロセス技術を最適化できるため、消費電力を可能な限り抑えられる。例えば、「PCA8523」であれば、消費電流は150nAと非常に少ない。I2Cバスは、マイコンとの接続などに向けて搭載した。

I2Cバスは衰退しない

I2Cバスは比較的古い技術だ。今後、新しい技術に置き換えられてしまう懸念はあるのか。

岡野 確かにI2Cバスは古い技術だ。しかし、マイコンの周辺技術として確立され、広く普及している。この状況を置き換える新技術が登場するとは考えにくい。I2Cバスは衰退しないだろう。

 それどころか、今後さらなる市場拡大が期待できる。IoT(Internet of Things)市場が立ち上がるからだ。センサ・ノードには、マイコンが搭載されており、周辺にさまざまなセンサが接続される。そのインターフェースは間違いなくI2Cバスである。

I2Cバスを新たな採用する場合、使いこなしのノウハウは必要か。

岡野 そもそも使いやすいバス技術であり、マイコン内蔵のI2C周辺ブロックを使えば特別なソフトウエアも不要だ。このためノウハウはほとんど不要だ。ただし、プルアップ抵抗が必要か不要か、必要な場合その抵抗値はいくつなのか、などの点で悩まれるエンジニアがいるかもしれない。今後も、そうしたエンジニアに対するサポートを積極的に行っていく考えだ。さらに、ユーザー・マニュアル「UM10204」も公開している。参考にしてほしい。

広範囲に及ぶI2Cロジック製品のポートフォリオ

NXPはI2Cバス機器分野をリードしており、通信やプロトコル変換に利用される広範な I2Cロジック製品を取り揃えています。

NXPのI2Cソリューションは、SMBus、AdvancedTCA (ATCA) IPMI、PMBusを利用するさまざまなシステムに最適です。

インタビューにて紹介した製品のお探しは下記からお願い致します。