米オン・セミコンダクター(ON Semiconductor)社が米モトローラ(Motorola)社から分離独立するかたちで設立されたのは1999年8月。それからもう15年以上の月日が経った。当初は、ディスクリート半導体チップや標準ロジックIC、標準アナログICだけを扱う半導体メーカーだった。しかしその後、米アナログ・デバイセズ(Analog Devices)社のCPU電源向け電源事業や、アナログ/ミクスドICの米AMIセミコンダクタ(AMI Semiconductor)社、アナログ/電源・シグナルICの米カタリスト・セミコンダクタ(Catalyst Semiconductor)社などを買収し、製品のポートフォリオを強化。さらに2011年には、三洋半導体を手中に収めて、製品の競争力はさらに強まった。
現在、旧三洋半導体の事業は、システムソリューションズグループ(SSG:System Solutions Group)として、オン・セミコンダクターに編入されている。注力している製品としては、MOSFETやインテリジェント・パワー・モジュール、バッテリ・マネジメントIC、モータードライブやユーザー・インターフェース製品などが挙げられる。その中でも、現在特に取り組みを強化しているのがモーター・ドライバICだ。
そこで今回は、SSG グローバルマーケティング部でダイレクターを務めるマシュー・タイラー(Matthew Tyler)氏と、インテリジェントパワーソリューション事業部 モータードライバーソリューションズBUでBUリーダーを務めるジョナサン・ナイト(Jonathan Knight)氏に、モーター・ドライバICの市場動向や製品戦略、拡販に力を入れている製品などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)
モーター・ドライバIC市場のトレンドをどう見ているのか。
モーターにはいくつか種類があるが、種類によって市場の成長率に違いがあるのか。
タイラー 大きく3つのカテゴリーがあると考えている。1つはブラシ付きDCモーター。電圧を印加すれば簡単に回転する低コストのモーターだ。
電子玩具や民生機器などで使われている。2つめは、ブラシレスDCモーター。信頼性が高く駆動効率が高いことが特徴だ。
主な用途は、パソコンの冷却ファンや多くの新規アプリケーションなどである。3つめは、ステッピング・モーター(Stepper Motor)である。こちらもブラシレスだが、こちらはマイコンや類似の制御回路などの制御パルスを用いた高精度な位置制御に使用される。モーターそのもののステップ数は固定されているが、多くのアプリケーションにおいてマイクロステップが要求される中で、駆動回路に応じて8、16、32、64、および128のステップでモーターの回転位置を細かく制御できることが特徴だ。応用範囲は広く、プリンタや工業機器などに使われている。
市場規模は、3つのモーターともほぼ同じだ。つまり、それぞれのモーターが市場を1/3ずつ分け合っている状況にある。しかし。市場の成長率には違いがある。DCモーターは市場が減少する傾向にある。その一方で、ブラシレスDCモーターとステッピング・モーター市場は、年率2〜3%で成長している。当社としては、この伸びている市場に注力していく。
ユーザーの開発コスト削減に貢献
モーター・ドライバIC市場には、多くの半導体メーカーが参入している。海外の半導体メーカーはもちろん、日本国内にもライバルとなるメーカーが数多くある。そうしたメーカーの製品とは、どのように差別化するのか。
タイラー モーター・ドライバICは決して高価なものではない。この製品分野では、低コスト/低価格を売りにする競合メーカーが存在することも事実だ。ただし、価格競争を挑んでも限界がある。そこで、製品の単純なコストだけでなく、製品の「Easy to Use」を進めて開発コストも削減できるようにすることが大切だ。
「Easy to Use」とは具体的に、どのようなことなのか。
タイラー パワーコンバータやアナログ回路などについて詳しいエンジニアは多いが、モーターの制御について詳しいエンジニアは案外少ない良いモーターコントロールエンジニアと呼ばれるには、マイコンのコード書込みが行え、アナログパワー機器の知識が豊富で、尚且つ機械システムを熟知していなければならない。現在、中国のモーター・ドライバIC市場が拡大しようとしているが、熟練したエンジニアの数が不十分だと、その成長が阻害される危険性があるだろう。
従って、モーター・ドライバICを採用する際に、「モーターの物理的な原理を理解していなければ使いこなせない」、「制御アルゴリズムを理解して、マイコンのソフトウエアを記述できなければ動かせない」といった制限が存在してはだめだ。物理的な原理や制御アルゴリズムを理解していなくても、簡単に使いこなせる。これが、当社が考える「Easy to Use」の具体例である。
モーター・ドライバIC自体のコスト/価格についてはどう考えているのか。
タイラー コストは極めて重要だ。低減する努力は日々続けている。欠かせないのは、小型化である。ICが小さくなれば、その分、コストを下げられるからだ。
今後、どのような製品を市場に投入していくのか。
小型パッケージや広い電源電圧範囲なども強み
日本市場において、特に拡販に力を入れている製品を教えてほしい。
タイラー 大きく分けて5つの製品がある。1つ1つ説明していこう。
ナイト 1つめは、3相ブラシレスDCモーター・ドライバIC「LV8806QA」である。産業機器やサーバー、ノート・パソコンなどの冷却ファンが主な用途だ。ホールセンサを使わないセンサレスに対応している。このため、コストの削減や配線の簡素化、信頼性の向上を実現できる。PWM信号のほか、リニア信号による駆動に対応する。
特徴としては、低消費電力や、低ノイズ、低振動などが挙げられるだろう。他に、実装面積がセンサレスモータドライバとしては業界最小の2.6mm×2.6mmの16ピンUQFNパッケージに封止していることも、この製品のメリットである。
2つめは、ステッピング・モーター・ドライバIC「LB1948MC」である。冷蔵庫などの白物家電や、給湯器など向けの製品だ。最大の特徴は、電源電圧範囲が2.5〜16V、絶対最大電圧が20Vと広いことだ。例えば、電源電圧が12Vの場合、電源ノイズやモーター負荷要因などの原因で電圧が上昇してしまうことがある。競合他社品は電源電圧範囲が狭いため、こうした電圧上昇に対するマージンが少ない。しかし当社の製品を使えば、信頼性を高めることができるわけだ。このほかの特徴としては、スタンバイ時の消費電力が0μAと低いことや、IC内部にレギュレータ回路を集積したため12V単一電源で動作する、外付け部品がほとんどないことなどが挙げられる。
残る3つの製品は何か。
ナイト 3つめは、ステッピング・モーター・ドライバIC「LV8731V」である。PWM信号に対応しており、最大1/16のマイクロステップ駆動が可能だ。複合プリンタ(MFP)やスキャナなどに向けた製品だ。特徴は、当社従来品とのピン互換性を確保しながら、高性能化と低消費電力化を同時に実現した点にある。さらに、効率が高いことや単一電源駆動が可能なこと、パッケージの熱抵抗が低いことなども特徴だ。
4つめはDCモーター・ドライバIC「LV8760T」である。これも複合プリンタやスキャナなどに向ける。正回転と逆回転の切り替え機能のほか、ブレーキ・モードやスタンバイ・モードを用意した。小型パッケージに封止したことや、その熱抵抗が低いことなどが特徴だ。
5つめはステッピング・モーター・ドライバIC「LV8773」である。フルステップ駆動とハーフステップ駆動には対応しているが、マイクロステップ駆動には対応していない。特徴は、集積したスイッチング素子のオン抵抗を削減することで、効率を高めた点にある。またDIPパッケージを採用しているため扱いやすく、アミューズメント機器などに向けた製品である。
こうした5つの製品はすべて、日本で設計されたものか。
ナイト その通りだ。いずれもSSGで設計した製品である。設計拠点は、群馬や岐阜、東京の上野にある。