
エアコンの室内機や室外機、冷蔵庫のコンプレッサ、洗濯機の回転ドラム・・・。「白物家電」と呼ばれる家電機器には、ほぼすべてモータが搭載されている。そのモータを効率よく駆動するには、インバータ回路の利用が欠かせない。インバータとは、直流(DC)電力を交流(AC)電源に変換する電源回路のこと。インバータを使えば、動作状況に応じてモータの回転数をきめ細かく制御できるため、効率が高められる。従来のオン/オフ制御では、動作状況に応じた最適制御は困難だったため、効率は極めて低かった。
現在、日本で販売されている白物家電のモータは、そのほとんどがインバータ制御を採用している。しかし、世界に目を移せば状況が異なる。まだまだインバータ化率が低い地域も少なくない。そこで今回は、モータドライバIC市場を牽引する半導体メーカーであるサンケン電気 デバイス事業本部 技術本部 IC事業部開発2課の野﨑優氏、川島良太氏、山中進氏に、モータドライバICの現状や、同社のモータドライバICの製品ラインナップ、最新製品の特徴などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)
現在のモータドライバIC市場の状況を教えてほしい。
野﨑 国内市場では、以前からインバータ化率が高く100%となっており、安定した需要が期待できる。
一方で、海外市場はまだこれからである。人口が13億人と多い中国のインバータ比率は現在、約40%程度であり、急ピッチで進むインバータ化のため、モータドライバの需要が増えている。民生機器に向けた高圧モータドライバICの売上高は2006年を1とすると、2017年にはその18倍にも達している(図1)。それだけインバータの搭載が進んでいる。
この数字は引き続き大きく伸びると予想されている。さらに中東諸国でも、インバータ比率が伸びる兆しがある。
民生機器に向けた高圧モータドライバICとは、どのようなものか。さらに、具体的にはどのような民生機器に搭載されているのか。
野﨑 具体的には、エアコンのコンプレッサや室外機用ファン、室内機用ファン、冷蔵庫のコンプレッサ、洗濯機の回転ドラムなどである。いわゆる「白物家電」と呼ばれる民生機器である。
こうした白物家電の上記のような機能を実現するには、3相ブラシレスDC(直流)モータの使用が欠かせない。このモータの駆動を担当しているのがモータドライバICである(図2)。モータドライバICは、マイコンの指令を受けて、パワー素子を駆動することで、モータを回転させる。
こうした白物家電向けモータドライバIC市場におけるサンケン電気のシェアはどのくらいなのか。
幅広い製品ラインナップを用意
どのような3相ブラシレスモータ用モータドライバICの製品ラインナップを用意しているのか。
耐圧は、250Vと500V、600Vの製品があるが、アプリケーションによって、どのように使い分ければいいのか。
野﨑 250V耐圧品は、AC100V入力の電子機器に向けたものだ。一方で500V耐圧品と600V耐圧品はAC200V入力の電子機器に向けている。500V耐圧品に加えて600V耐圧品も用意しているのは、中国や中東では送電ラインが不安定で、比較的大きなノイズ電圧が発生する危険性が高いからである。ノイズ電圧が発生しても耐えられるように、マージン(余裕度)を確保した600V耐圧品も用意している。
定格電流の対応範囲はどの程度なのか。
パッケージは、何種類用意しているのか。
野﨑 パッケージのラインナップも多い。ZIPやSOP、DIPなどを用意している。
発売しているモータドライバICは、1チップ品か、それともマルチチップ品なのか。
野﨑 いずれもマルチチップ構成である。ゲートドライバチップと、3相インバータを構成するスイッチング素子、ブートストラップダイオードは、それぞれ別チップであり、それらを1パッケージに収めた。
スイッチング素子は、パワーMOSFETを採用しているのか。
川島 製品によって異なる。プレーナ型のパワーMOSFETを採用している製品もあれば、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を採用している製品もある。パワーMOSFETは電流が小さい領域ではIGBTと比べ低損失になる傾向にある為、モータ負荷が比較的小さいファンモータ用途を中心に使用される。今後 スーパージャンクション型MOSFETを搭載した製品のラインナップを増やすことにより 定格電流が大きくなり、コンプレッサ用途への展開も視野に入れている。一方、IGBTは電流が大きい領域ではMOSFETと比べ低損失になる傾向があり、モータ負荷が大きい洗濯機,コンプレッサ用途を中心に使用されている。
使い勝手の高いGUIツールを用意
幅広い製品ラインナップの中から特徴的な製品を紹介してほしい。
野崎 最初に紹介したいのは、「SX68200Mシリーズ」である(図6)。これは、センサレスのベクトル制御に対応した3相ブラシレス用モータドライバICだ。ベクトルモータ制御回路を搭載しているため、外付けのマイコンは不要であり、プログラミングも不要。パソコンとモータドライバICをUSBケーブルで直接接続して、当社が提供するGUIツールを使ってパソコン画面上でパラメータを設定するだけで、モータ性能などをチューニングできる(図7)。
2種類の速度制御(PI制御)モードを搭載している。1つはVspによるアナログ電圧制御。もう1つはシリアル通信制御である。設定したパラメータは、集積したEEPROMに格納できる。さらに正弦波電流駆動に対応しているため高効率で低騒音な駆動ができる。
GUIツールの使い勝手はどうか。
山中 マニュアルの整備が整えば非常に使い易いGUIツールになると自負している。例えばモータの起動に失敗したら、GUIツールがその理由を設計者に知らせてくれる機能を用意している。具体的には、問題のあるパラメータをハイライトすることで設計者に知らせる。
ベクトル制御を採用するメリットは何か。
野﨑 ベクトル制御を使えば、常に最適な電流で駆動出来る。その結果、効率と静音性の両方を高められる。もちろん、従来もベクトル制御を利用することが可能だったが、発売した本ICでは、多くの機能を1チップに集積したため、プリント基板上の実装面積を55%、部品点数を45%低減できるというメリットが得られる。
実装面積と部品点数の比較対象は何か。
野﨑 ディスクリート部品で組んだ場合である。中国市場で販売されている扇風機などは、ディスクリート部品でベクトル制御を実現する例が珍しくない。
このほかの特徴的な製品にはどのようなものがあるか。
野﨑 「SX68120Mシリーズ」も多くの特徴を持つ3相ブラシレスDCモータ用モータドライバICである。正弦波電流による駆動が可能なため高効率で低騒音という長所がある。しかも、ホールセンサー用アンプ回路を内蔵しているため、ホールセンサーを簡単に外付けできる。このほかに搭載した機能としては、外部入力信号による進角機能、エラー出力機能、回転方向切り替え機能などがある。スイッチング周波数は17~20kHzの範囲でユーザーが調整できる。
「SMA/SLA6860MHシリーズ」は、海外市場で販売する低価格なエアコンに向けたモータドライバICである。出力電流は1.0〜3.0Aと比較的小さい。エアコンの室内機用ファンと室外機用ファンの両方に使える。
今後のモータドライバIC市場は、どのように推移していくと考えているのか。
野﨑 前述の通り、中国向け白物家電のインバータ化率は40%程度であるため、モータドライバIC市場は今後もまだまだ伸びると見ている。それに加えて、PM2.5の問題もあるため空気清浄機も拡大するだろう。「SMA6860MHシリーズ」は空気清浄機に最適である。
このほか中東や東南アジア、インドなどの市場も今後期待できる。こうした成長市場をカバーするために、2018年4月にデザインセンターをタイに開設した。当社のモータドライバICの売り上げ拡大に大きく貢献するだろう。
モータドライバICを豊富にラインナップ!
今回のメーカインタビューで紹介した家電用高圧モータドライバICを販売中です。
また、2相モータドライバICや低圧モータドライバICなど、幅広くラインナップしています。
開発中の製品については、メーカより発表されましたら随時販売予定です!
また、サンケン電気のIC、ディスクリート、電源製品も豊富にそろえております。