近距離無線通信規格である「Bluetooth®(ブルートゥース)」。1999年に仕様が策定された規格であり、すでにパソコンのワイヤレス・マウス/キーボードや、自動車のハンズフリー通話機能、ワイヤレス・ヘッドフォンなど、さまざまな用途で採用されている。
このBluetooth®の低消費電力版に相当するのが「Bluetooth® Low Energy(BLE)」だ。2009年末に仕様が公開された。消費電力を極めて低く抑えられることが最大の特徴である。コイン型電池だけで、1年以上の駆動時間を実現できる。こうした特徴が高く評価され、早くも対応機器が数多く市場に投入されている。腕時計型やメガネ型などのウエアラブル機器のほか、ヘルスケア機器やスポーツ機器などだ。
BLE機能を電子機器に組み込む方法は、大きく分けて2つある。1つは、対応する無線通信ICを採用する方法。もう1つは、無線通信ICのほか周辺回路も収めた無線通信モジュールを採用する方法である。Bluetooth®の規格化作業に初期の段階から関わってきた太陽誘電は、後者の無線通信モジュールを現在製品化している。その同社においてBLE製品を担当する峯岸幸人氏(新事業推進本部 新事業推進室 産機推進プロジェクトFAE)に、BLE市場の今後の展開や、同社の強みや製品戦略などについて聞いた(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。
BLEの特徴は何か?
既存のBluetooth®規格との互換性は確保されているのか。
峯岸 BLEの正式な規格名は「Bluetooth® 4.0」である。このver4.0と、既存のver3.0やver2.1との間には、まったく互換性はない。
ただし、BLEには2つの仕様がある。「Bluetooth® Smart」と「Bluetooth® Smart Ready」だ。前者は、ver4.0しか対応していない。つまりBLE規格に対応した無線通信しか実行できない。「核(コア)」となるスマートフォンやタブレット端末などにつなげて使う周辺機器に最適と言えるだろう。一方後者は、ver4.0に加えて、ver3.0もしくはver2.1のデュアル・モードに対応する。従って、既存のBluetooth規格とBLE規格の両方の無線通信が可能だ。このため、さまざまな周辺機器とつながる核となる電子機器に最適だ。具体的には、スマートフォンやタブレット端末などである。
産業分野にも市場が広がる
BLEの現状での普及状況について聞きたい。
峯岸 スマートフォンやタブレット端末においてBLEの採用が始まっている。
それらにつながる周辺機器でもBLE対応製品の実用化が相次いでいる。血圧計や心拍計、血糖値計、体組成計などのヘルスケア機器や、フィットネス(スポーツ)機器、ホーム・セキュリティ機器などである。
現在では、産業用電子機器にも広がりはじめている。具体的には、装置間の1対1の無線接続である。センサー端末で取得したデータの取得や、従来は赤外線で実行していた装置のオン/オフ切り替えなどに、BLEを利用するわけだ。従来であれば、こうした用途には、独自の無線通信技術を使う企業が多かった。しかし、無線通信技術の開発には手間が掛かる。太陽誘電のBLEを採用すれば、こうした手間を一気に省ける。
このほか店舗や病院などでも、BLEを活用している。例えば、店舗では、BLEを使って、今までにはないサービスを提供することが可能になった。それは、BLEに対応したスマートフォンなどを持ったお客さんを無線アクセス・ポイント装置で自動的に検知し、クーポンなどを送信するというサービスだ。通信可能な距離が短いというBLEの特徴を上手く生かした適用例だろう。
現在話題になっているモノのインターネット(IoT:Internet of things)への対応はどうか。
峯岸 ver4.0では対応していない。現在、Bluetooth® SIG(Special Interest Group)で開発を進めている次期規格「Bluetooth® 4.1」でインターネット・アクセスなどが可能になる予定だ。BLEにおけるIoTへの対応は、今後進むことになるだろう。
開発サポートが充実
太陽誘電が製品化しているBLE対応モジュールの特徴を知りたい。
峯岸 ハードウエアの使い勝手がよいことと、開発サポートが充実していること。この2つが当社のBLE対応モジュールのメリットと言える。
当社のBLEモジュール「EYSFCNZXX」では、ノルウェーNordic Semiconductor社のBLE通信IC「nRF51822」を採用した。このICは、BLEに対応した送受信回路や、汎用プロセッサ(ARM Cortex M0)、フラッシュ・メモリーなどを集積している。 使用する際にはプログラム開発が必要だ。しかし、この開発環境が充実している。Nordic社が使いやすいソフトウエア開発キット(SDK)を用意しており、インターネットを介した技術サポートも受けられる。比較的スムーズにソフトウエア開発を進められるはずだ。
さらに太陽誘電製BLEモジュールには、チップ・アンテナを内蔵している。アンテナの設計や実装には、無線技術に関する専門知識が必要だ。しかし、当社のモジュールを使えば、それをプリント基板に搭載するだけで問題なく動作する。
このほか、電波法の取得に関するサポートも充実している。BLEモジュール単体で電波法の認証を受けているため、例えば日本国内であれば、BLEモジュールを搭載した最終製品(セット)は認証を受ける事なく商品化する事が可能。そのまま市場に投入できる。
ただし、欧州などの地域では、BLEモジュール単体で認証を受けていても、最終製品での認証が必要になる。このケースでも、当社が技術サポートを提供するため煩わしい認証取得作業が軽減できる。当社は認証機関と業務提携を結んでいるため、認証に関する最新情報を常に入手している。その情報に基づいてサポートするので、トラブルなく迅速に認証を取得できるわけだ。
部品内蔵配線板で大幅な小型化
Nordic社のBLE通信ICを採用したBLEモジュールを製品化しているのは、太陽誘電だけではない。
モジュールの競合他社と比較した際の、太陽誘電も優位な点は何か。
峯岸 大きく分けると2つある。1つは、独自のプロファイルを開発し、提供していることだ。通常、BLEのプロファイルは、Bluetooth® SIG(Special Interest Group)で開発され、さまざまなメーカーに提供される。しかし、当社はBluetooth®の規格化当初から関与してきた実績があるため、さまざまな技術やノウハウが蓄積されている。これらを生かすことで、独自プロファイルの開発が可能だ。競合他社にはない強みである。
もう1つは、部品内蔵配線板「EOMIN(Embedded Organic Module Involved Nanotechnology)」の技術を所有していることだ。この技術を使えば、BLEモジュールを大幅に小型化できる。従来品の外形寸法は12.9mm×9.6mm×2.0mmだったが、EOMINを適用することで5.3mm×4.3mm×1.2mm、業界トップレベルの小型化に成功した。型番は「EVSFLNZXX」で、すでにサンプル出荷を始めている。
BLE市場の将来をどう予測しているのか。
峯岸 ほとんどのスマートフォンに搭載され、その結果、スマートフォンに接続される、ありとあらゆる電子機器に採用されることになるだろう。具体的には、ヘルスケア機器や、スポーツ機器、フィットネス機器、ウエアラブル・コンピュータ・ホーム/エンターテインメント機器、モバイル用アクセサリー機器などである。
このほか店舗や病院などでも、BLEを活用している。例えば、店舗では、BLEを使って、今までにはないサービスを提供することが可能になった。それは、BLEに対応したスマートフォンなどを持ったお客さんを無線アクセス・ポイント装置で自動的に検知し、クーポンなどを送信するというサービスだ。通信可能な距離が短いというBLEの特徴を上手く生かした適用例だろう。
Bluetooth® Low Energyモジュール「EYSFCNZXX」

■低消費電力
-年単位での電池駆動が可能
■アンテナ内蔵 (9.6 x 12.9 x 2.0 mm)
■水晶内蔵 (メインクロック用&スリープクロック用)
-アンテナ付き水晶内蔵Bluetooth® Smartモジュールでは世界最小クラス
■日本/アメリカ/カナダ電波法取得済み
-FCC, IC, CE 各電波法に対する特性性能を満たす
-Bluetooth® Smart Logo認証取得済み
■I/F: UART/SPI/I2C
■CPU/Memory: ARM Cortex M0 / Flash 256KB / RAM 16KB
■周波数:2,402 to 2,480 MHz
■RF出力: +4dBm typ.
■入力電圧: 1.8 to 3.6V
■ソフトウェア (Nordic SDK対応 アプリケーションの内蔵可能)
※Nordic IC 評価ボード、FW/アプリ書き込み用SEGGER基板、アンテナ、ケーブル等のそろった評価キット (評価ボード + Nordic DK)と同時販売中