~Maker Interview~

メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
※最新の業界動向をお届けします。

効率と放熱を重視したDC-DCコンバータ・モジュール、高性能デジタルLSIのPOL用途に向ける

水鳥貴之氏

図1: 降圧型DC-DCコンバータ・モジュールの第2弾製品
図左から、6A出力品「THPM4301A」、8A出力品「THPM4401A」、12A出力品「THPM4601A」である。

 コンピュータや通信機器、産業機器、医療機器などで「頭脳」の役割を果たすプロセッサやFPGA、SoC、ASIC、GPU、DSPなどのデジタルLSI。こうした高性能なデジタルLSIに電力を供給するDC-DCコンバータを一般に「POL(Point of Load)コンバータ」と呼ぶ。現在、このPOLコンバータに新しい波が押し寄せている。それは、モジュール化という波だ。

 ここで言うモジュール化とは、DC-DCコンバータに欠かせない制御ICやスイッチング素子、インダクタ、コンデンサ、抵抗器などを1つのパッケージに収めることを指す。すでに、多くのアナログ半導体メーカーや電源メーカーが、降圧型DC-DCコンバータ・モジュールの製品化を始めている。ザインエレクトロニクスも、そうしたメーカーの1社だ。2016年に降圧型DC-DCコンバータ・モジュールの第1弾製品を発売。そして2019年9月に第2弾製品である「THPM4301A/THPM4401A/THPM4601A」を市場に投入した(図1)。

 今回は、同社の営業部 営業企画グループ マネージャ代理を務める水鳥貴之氏に、DC-DCコンバータ・モジュール市場の動向や、新製品の開発コンセプト、新製品の採用で得られるメリットなどについて聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)

高性能なデジタルLSIに電力を供給するPOLコンバータにおいて、モジュール品の製品化が相次いでいる。モジュール品を採用するユーザー側のメリットは何か?

水鳥 モジュール品は、降圧型DC-DCコンバータ回路に必要な部品のほとんどを1つのパッケージに収めている。このため、ユーザーである電子機器メーカーは、電源回路設計の作業が不要になり、プリント基板に実装するだけで高性能なデジタルLSIを駆動できるようになる。このため、出力リップル電圧やノイズ、発熱などに関するトラブルに遭遇する可能性を低く抑えられ、タイム・ツー・マーケットを実現できるというメリットがある。

なぜ、モジュール品を製品化するアナログ半導体メーカーや電源メーカーが増えているのか。その背景を教えてほしい。

水鳥 背景には、2つの大きなトレンドがあると考えている。1つは、電源回路が設計できるアナログ技術者が減っていることである。もう1つは、電子機器開発のリードタイムが短くなっていることだ。

 人もいないし、時間もない。ディスクリート部品を集めて電源回路を設計していては、製品開発のスケジュールを守れないかもしれない。前述のようなトラブルが発生すれば、製品化時期は確実に遅れてしまう。そこで部品コストは多少高くなってしまうものの、人材不足への対応や時間短縮を目的にDC-DCコンバータ・モジュールを採用する事例が増えているわけだ。

インダクタの新規開発へ

すでにザインエレクトロニクスは、第1弾製品として、「THV81800」を市場に投入している。まずは、第1弾品の特徴を説明してほしい。

水鳥 第1弾品は2016年に製品化を発表した。入力電圧範囲は7.5~28Vで、出力電圧は0.85~4.0Vの範囲で設定できる。パッケージは外形寸法が15mm×15mm×2.82mmと小さいが、最大8Aと大きな出力電流を取れる点が特徴である。

 この第1弾品で最も重視したのは、負荷過渡応答特性である。一般に、プロセッサやFPGAなどの高性能なデジタルLSIは、ダイナミック動作時に負荷電流が過渡的に変動する。POLコンバータはこの変動に追従して、安定した電圧を供給し続けなければならない。これを可能にするのが高速な負荷過渡応答特性である。

 第1弾品では、当社独自のDC-DCコンバータ制御技術「Transphase(トランスフェーズ)」を採用することで、業界最高水準の負荷過渡応答特性を達成した。

第2弾品である「THPM4301A/THPM4401A/THPM4601A」でも、最も重視した特性は同じなのか。

水鳥 第2弾品では最も重視する特性を変更した。今回重視したのは、変換効率と放熱特性である。

 一般に、DC-DCコンバータの変換効率を高めるには、最新の回路技術を活用してスイッチング損失やデッドタイム損失を低減したり、パワーMOSFETなどのスイッチング素子やインダクタで発生する損失を減らしたりすることが効果的だ。しかし、スイッチング素子の損失は、技術的にかなり極限まで到達しており、パワーMOSFETを採用するケースでは損失を大幅に減らすのは困難だろう。もちろん、新しいスイッチング素子であるGaN(窒化ガリウム) FETを使えば、大幅に削減できる余地があるものの、現時点ではGaN FETは高耐圧なアプリケーションでの採用実績は増えているものの、POLコンバータ市場においての採用は多くない。

 そこで第2弾品では、インダクタに着目した。インダクタの損失を減らすには、巻線の直流抵抗(DCR)を減らすことが重要だが、DCRの小さなインダクタを選択すると、インダクタの外形寸法が大きくなってしまう。このため、汎用品を採用していたのでは、なかなか市場が要求する外形寸法に収めることは難しい。そこで今回は、降圧型DC-DCコンバータ・モジュールに最適なインダクタの開発について電子部品メーカーに協力を仰いだ。

ホットスポットの発生を防ぐ

採用したインダクタとはどのようなものか。

新規開発したインダクタを採用

図2: 新規開発したインダクタを採用
新開発のインダクタは、薄い直方体であり、その一部にコイルを埋め込み、一部にくぼみ(キャビティ)を作り込んだ。インダクタと基板を一体化させてDC-DCコンバータ・モジュールを完成させる。

水鳥 形状に特徴がある。インダクタ全体の形状は、ケース状に加工された薄い直方体であり、その一部に巻線(コイル)を埋め込んだ(図2)。さらに、直方体の一部にくぼみ(キャビティ)を設け、その直下に、基板に実装されたDC-DCコンバータICやコンデンサ、抵抗などを配置した。こうすることでDC-DCコンバータ・モジュールが完成する。

なぜ、こうした形状に行き着いたのか。

変換効率が向上

図3: 変換効率が向上
直流抵抗(DCR)が低いインダクタを採用することなどで変換効率を高めた。

高い放熱特性を実現

図4: 高い放熱特性を実現
インダクタがヒートシンクの役割を果たす。このため、高い放熱特性を実現できた。大量の熱が発生するDC-DCコンバータICは、熱伝導率が高い接着剤を使ってインダクタと密着させることで、ホットスポットの発生を防いだ。

水鳥 理由は2つある。1つは、太い巻線が使えることだ。採用した巻線は平角線で、通常の丸線よりも断面積が大きくなるのでDCRは低くなる(図3)。このため、一定のインダクタンスを確保しながらDCRの低減に成功した。

 もう1つは放熱特性を高められることである。インダクタ全体は、磁性体であるコア材で形成した。このコアがインダクタの特性を高めると同時に、ヒートシンクの役割を兼ねている。しかも、DC-DCコンバータICとコアを密着させるために、熱伝導率が高い接着剤で隙間を埋めた。こうすることで、1カ所だけ温度が高くなるホットスポット(局所発熱)の発生を回避した(図4)。電力損失から発生する局所発熱がインダクタで均一化されるため、温度ディレーティングが必要なケースを減らすことができる。

ケース状に加工されたインダクタを採用することで、変換効率はどの程度高められたのか。

水鳥 新インダクタを採用することで、エポキシ樹脂でモールディングする既存の構成と比べると、変換効率を2%以上高められた。

低EMI特性も実現

第2弾品として発売した3つの製品について特性などを説明してほしい。

3つの製品の仕様

図5: 3つの製品の仕様

水鳥 発売した3つの製品は、最大出力電流が異なる(図5)。「THPM4301A」は最大出力電流が6A、「THPM4401A」は最大出力電流が8A、「THPM4601A」は最大出力電流が12Aである。

 6A出力品の入力電圧範囲は2.95〜6Vである。入力源として5Vの中間バス電圧を想定している。8A出力品の入力電圧範囲は4〜28Vで、12A出力品は4〜16Vである。いずれも12Vの中間バス電圧を入力源として使うことを想定している。

 3つの製品は外形寸法も違う。6A出力品が9.1mm×11mm×2.8mm、8A出力品は9.2mm×15.2mm×3mm、12A出力品は15.2mm×15.2mm×3.2mmである。いずれもかなり小さいと言えるだろう。スイッチング周波数は、6A出力品と8A出力品を約750kHzに、12A出力品を約1MHzに設定した。

このほかの第2弾品の特徴は何か。

水鳥 新インダクタを採用したメリットは、前述の変換効率の向上と放熱特性の改善のほかにも2つある。

 1つは、放射電磁ノイズ(EMI)を低く抑えられることだ。降圧型DC-DCコンバータICなどを実装した基板を磁性材料からなるインダクタで完全に覆っているので、外部に放射されるEMIを封じることができており、競合他社品に比べるとEMIのレベルを約10dB程度低減できる。

 もう1つは、放熱特性が高いため、モジュールの外形寸法は小さいながらも、より多くの電流をデジタルLSIに供給できることである。言い換えれば、電力密度の高いPOLコンバータを実現できる。

第2弾品が想定する具体的なアプリケーションは何か。

水鳥 医療用電子機器や半導体テスター、半導体検査装置、計測機、分析機器、通信機器、放送/映像機器、FA機器、産業用ロボットなどを想定している。

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