~Maker Interview~

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中高耐圧パワーMOSFETの品揃えを強化、デバイス構造の最適化で性能が向上

辻正敬氏 辻 正敬 氏

 AC-DCコンバータ(スイッチング電源)やDC-DCコンバータといった電源は、ほぼすべての電子機器に搭載されている。その電源において極めて重要な役割を果たしているのがパワーMOSFETである。採用するパワーMOSFETによって、電源の出力電圧精度や、変換効率、発熱量、EMIノイズなどの特性が大きく変化してしまうからだ。どのようなパワーMOSFETを選ぶのか。これが電源設計の行方を大きく左右するといっても過言ではないだろう。

 しかも、パワーMOSFETは数多くの電子機器に搭載されているため、市場規模が極めて大きい。それだけに世界中のさまざまな半導体メーカーがパワーMOSFETを市場に投入しているため、製品の選択肢は非常に広い。

 今回は、パワーMOSFET市場における国内メーカーの「雄」である東芝デバイス&ストレージのディスクリート半導体事業部ディスクリート応用技術センター パワーマネジメント応用技術部の辻正敬(つじ・まさたか)氏に、中高耐圧パワーMOSFETの最新製品の特徴や、注意すべきパワーMOSFETの特性、最適なアプリケーションなどについて聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

中高耐圧とは、どの程度の電圧範囲が対象になるのか。

中高耐圧パワーMOSFETが使われるアプリケーション

図1: 中高耐圧パワーMOSFETが使われるアプリケーション
通信機器やデータセンター機器などのAC-DCコンバータ(スイッチング電源)に使われている。ここで商用のAC電源電圧を48Vや24VのDCバスに変換する。

 中高耐圧とは、当社では400〜900Vの範囲である。主にユニバーサル入力(AC85V〜264V)に対応したAC-DCコンバータ(スイッチング電源)や力率改善(PFC:Power Factor Correction)回路などに向ける。アプリケーションは多岐に渡っており、小さな出力容量であれば、携帯型電子機器の充電器やACアダプタなど。比較的大きな出力電力であれば、サーバーや無線通信基地局のAC-DCコンバータ(スイッチング電源)などに使われている(図1)。

現在、東芝デバイス&ストレージは、中高耐圧パワーMOSFET市場にどのような製品を投入しているのか。

2重拡散型(プレーナ型)MOSFETとスーパージャンクション型MOSFETを用意

図2: 2重拡散型(プレーナ型)MOSFETとスーパージャンクション型MOSFETを用意
中高耐圧パワーMOSFETとして、2重拡散型(プレーナ型)MOSFETとスーパージャンクション型MOSFETを用意した。今回は、プレーナ型MOSFETの「π-MOSIXシリーズ」と、スーパージャンクション型MOSFETの「DTMOSVIシリーズ」を紹介する。

 当社では、中高耐圧パワーMOSFET市場に向けて2つの製品シリーズを投入している(図2)。1つは「DTMOSシリーズ」。もう1つは「π-MOSシリーズ」である。

それぞれの製品シリーズには、どのような特徴があるのか。

 π-MOSシリーズの性能については、スイッチング速度はあまり速くなく、DTMOSシリーズと比較するとオン抵抗ラインナップは高い製品が多い。ただし、スイッチング速度があまり速くないことは、決してデメリットではない。EMIノイズが発生しづらいため、技術者にとっては使いやすく、扱いやすいパワーMOSFETだと言えるだろう。

 一方のDTMOSシリーズは、オン抵抗が非常に低いという特徴を持つ。オン抵抗が低ければ、AC-DCコンバータの電力損失を低く抑えられる。つまり変換効率を高めやすい。変換効率の高さを重視する用途に向く。スイッチング速度は速い。このため高周波スイッチングが可能になるというメリットがある一方で、EMIノイズが発生しやすいというデメリットがある。

デバイス構造が異なる

DTMOSシリーズとπ-MOSシリーズの特性が大きく異なる理由は何か。

 パワーMOSFETとしてのデバイス構造がまったく違うことだ。DTMOSシリーズはスーパージャンクション(Super Junction)構造を採用しており、π-MOSシリーズはプレーナ構造を採用している。プレーナ構造とは、いわゆる2重拡散構造であり、古くからあるパワーMOSFETの基本的なデバイス構造である。スーパージャンクション構造は、比較的新しいデバイス構造である。

 なおパワーMOSFETでは、トレンチ構造も広く知られているが、このデバイス構造ではせいぜい200V程度の耐圧までしかトレンチ構造のメリットを生かす事ができない。このため400〜900Vの耐圧範囲では、スーパージャンクション構造とプレーナ構造のどちらかを選択することになる。

なぜスーパージャンクション構造を採用すると、オン抵抗を大幅に低減できるのか。

デバイス構造

図3: デバイス構造
東芝デバイス&ストレージの2重拡散型(プレーナ型)MOSFETとスーパージャンクション型
MOSFETのデバイス構造図である。
東芝デバイス&ストレージ 製品紹介ページ
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/hv-mosfet.html

 デバイス構造に理由がある。図3を見ていただきたい。スーパージャンクション構造では、デバイスの縦方向にp型Si層が入っており、電子が移動するドリフト層がn型Si層で形成されている。一方、プレーナ型はドリフト層がn−型Si層である。一般に、n型Si層とn−型Si層を比較すると、キャリア濃度はn型Si層の方が高い。その分だけドリフト層の抵抗成分が減る。これがスーパージャンクション構造を採用することでオン抵抗を大幅に低減できる理由である。

スーパージャンクション構造のパワーMOSFETは、競合他社もすでに製品化している。
そうした競合他社品との違いは何か。

DTMOSVIシリーズのオン抵抗とゲート電荷量

図4: DTMOSVIシリーズのオン抵抗とゲート電荷量
DTMOSVIシリーズは、オン抵抗(Ron)とゲート-ドレイン間電荷量(Qgd)がいずれも小さい。このため両者の積で求める性能指数(FOM)も低い。「業界トップクラス」を実現している。

変換効率の向上貢献

図5: 変換効率の向上貢献
DTMOSVIシリーズは性能指数(FOM)が低い。このため変換効率を高められる。2.5kW出力のPFC(力率改善)回路に適用したところ、0.36%の効率向上が得られた。電力損失に換算すれば、約9.6Wの削減になる。

 当社の製品も競合他社の製品も、スーパージャンクション構造自体には大きな違いはない。ただし、当社の製品の方が性能の点で上回っている。具体的には、オン抵抗(Ron)とゲート-ドレイン間電荷量(Qgd)の積で求める性能指数「FOM(Figure of Merit)」に優れている。

 DTMOSシリーズの最新製品である「DTMOSVIシリーズ」は、前世代品である「DTMOSIV-H」と比べるとFOMを約40%も低減した(図4)。競合他社品と比較すると、FOMは30%程度低い。FOMが低ければ、その分だけAC―DCコンバータ(スイッチング電源)の変換効率を高められる(図5)。

スーパージャンクション構造自体に違いがないにも関わらず、FOMを低減できた理由は何か。

 図2に示したデバイスの断面構造において、最上部に位置するMOS構造を最適化することによってゲート-ドレイン間電荷量を減らすことでFOMを低減した。

効率を維持しながらノイズを削減

「π-MOSシリーズ」の最新製品の特徴は何か。

変換効率を維持しながらノイズを削減

図6: 変換効率を維持しながらノイズを削減
π-MOSIXシリーズでは、前世代品に比べてほぼ同等の変換効率を維持しながら、EMIノイズを低減できる点が特徴だ。

 π-MOSシリーズの最新製品は「π-MOSIXシリーズ」になる。この最新シリーズは、変換効率については前世代品と同等を維持しながらも、EMIノイズを低減できる点に特徴がある(図6)。

変換効率はどの程度が得られるのか。

π-MOSIXシリーズ採用の効果

図7: π-MOSIXシリーズ採用の効果
変換効率とEMIノイズで、π-MOSIXシリーズの採用の効果を評価した。前世代品であるπ-MOSIVIIシリーズとπ-MOSIXシリーズを使って65W出力のノート・パソコン向けACアダプタを作成し、変換効率とEMIノイズを測定した。変換効率は、ほぼ同等という結果が得られた。一方、EMIノイズについてはπ-MOSIXシリーズの方が広い周波数帯域にわたって最大5dB程度低減できるという測定結果となった。

 最新製品であるπ-MOSIXシリーズの「TK750A60F」を65W出力のノート・パソコン向けACアダプタに適用したところ、15〜60Wの出力電力範囲において87.5〜89.5%程度の変換効率が得られている(図7)。これは、前世代品である「π-MOSVIIシリーズ」の「TK10A60D」を使った場合とほぼ変わらない。

65W出力のACアダプタでは、その程度の変換効率が業界のトレンドなのか。

 ピーク効率で90%もあればよい方である。従って、π-MOSIXシリーズを使えば、業界トレンドとほぼ同レベルの変換効率が得られることになる。なお、ノート・パソコン向けACアダプタでは、変換効率をこれ以上高めることよりも、コストを削減することが重視される傾向にある。

 一方で、スーパージャンクション型パワーMOSFETを採用する産業機器向けスイッチング電源であれば、変換効率は95%以上がターゲットになる。そもそも出力容量が大きいため、1%の損失でもランニングコスト(電気料金)が無視できないほど高くなり、発熱量も増大して熱対策が大変になるからだ。

π-MOSIXシリーズでは、前世代品に対してどのような変更を加えてEMIノイズを削減したのか。

π-MOSIXシリーズ採用の効果

図7: π-MOSIXシリーズ採用の効果
変換効率とEMIノイズで、π-MOSIXシリーズの採用の効果を評価した。前世代品であるπ-MOSIVIIシリーズとπ-MOSIXシリーズを使って65W出力のノート・パソコン向けACアダプタを作成し、変換効率とEMIノイズを測定した。変換効率は、ほぼ同等という結果が得られた。一方、EMIノイズについてはπ-MOSIXシリーズの方が広い周波数帯域にわたって最大5dB程度低減できるという測定結果となった。

 基本的な構造については、前世代品であるπ-MOSVIIシリーズと同じである。ただし、前述のDTMOSVIシリーズと同様に、デバイスの最上部に位置するMOS構造を改良した。この結果、帰還容量などの特性を最適化でき、変換効率を維持しながらノイズを低減することが可能になった。実際に65W出力のノート・パソコン向けACアダプタの放射ノイズ(EMI)を測定したところ、最新製品を使った方がEMIのレベルを広い周波数帯域にわたって5dB程度抑えられている(図7)。

EMIノイズ以外に改良された特性はないのか。

 π-MOSシリーズ全体に言えることだが、アバランシェ耐量が高いというメリットがある。一般に、パワーMOSFETは世代が新しくなるとプロセス技術の微細化が進み、その結果としてアバランシェ耐量が減ってしまうという課題がある。しかし、π-MOSIXシリーズでは、デバイス構造を工夫することで、前世代品であるπ-MOSVIIシリーズと同じアバランシェ耐量を保証している。この点も特徴に挙げられるだろう。

中高耐圧市場ではトップシェアを争う

中高耐圧パワーMOSFET市場における東芝のシェアはどの程度か。

 プレーナ構造、スーパージャンクションタイプ構造ともに世界全体で見てもトップグループに入るシェアを持っており、国内外を問わず様々な電源メーカーに東芝のMOSFETを採用いただいている。

なぜこのタイミングにπ-MOSIXシリーズを発売したのか。

 東芝としては600V耐圧のプレーナ型MOSFETは前世代品のπ-MOSVIIシリーズを約11年前の2008年にリリース以降、新世代品のリリースはしていなかった。しかし民生向けの汎用電源においては電源の低容量化、低コスト要求に伴い依然としてプレーナ型のパワーMOSFETを求める声は大きく市場規模も大きい。そのため当社としてもさらなるデバイス特性の改善を加えたπ-MOSIXシリーズを発売するに至った。

DTMOSVIシリーズとπ-MOSIXシリーズではどのような製品を市場に投入しているのか。具体的に教えてほしい。

DTMOSVIシリーズとπ-MOSIXシリーズの製品ポートフォリオ

図8: DTMOSVIシリーズとπ-MOSIXシリーズの製品ポートフォリオ

 今回紹介するのは、DTMOSVIシリーズが7製品、π-MOSIXシリーズでは10製品である(2019年5月現在量産品)(図8)。なお、DTMOSVIシリーズは650V耐圧で、π-MOSIXシリーズは600V耐圧であり、いずれもnチャネル品である。

 DTMOSVIシリーズは、TO-247パッケージを3製品、TO-247-4Lパッケージを3製品、TO-220SISを1製品用意した。例えば、最もオン抵抗が低いのは、TO-247パッケージの「TK040N65Z」と、TO-247-4Lパッケージの「TK040Z65Z」である。いずれもオン抵抗は0.04Ω(最大値)と低く、ドレイン電流は57Aである。

 π-MOSIXシリーズの10製品は、いずれもパッケージはTO-220SIS(フルモールドタイプ)である。10製品はいずれもオン抵抗とドレイン電流が異なる。オン抵抗の範囲は0.37〜4.1Ω、ドレイン電流の範囲は2〜15Aである。

■ 製品リンク (東芝デバイス&ストレージのWebページにリンクします。)

TK099V65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK099V65Z.html
TK090A65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK090A65Z.html
TK090N65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK090N65Z.html
TK065N65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK065N65Z.html
TK040N65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK040N65Z.html
TK090Z65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK090Z65Z.html
TK065Z65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK065Z65Z.html
TK040Z65Z https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK040Z65Z.html
TK4K1A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK4K1A60F.html
TK2K2A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK2K2A60F.html
TK1K9A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK1K9A60F.html
TK1K7A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK1K7A60F.html
TK1K2A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK1K2A60F.html
TK1K0A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK1K0A60F.html
TK750A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK750A60F.html
TK650A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK650A60F.html
TK430A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK430A60F.html
TK370A60F https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK370A60F.html