~Maker Interview~

メーカのHOTなトピックス、今最も注力している製品にフォーカスし、
開発現場や製品企画担当の方々に戦略や今後の方針を語っていただくコーナー。
※最新の業界動向を毎月お届けします。

QMEMSや半導体技術などの総合力で差別化、産業用途などに向けたプログラマブル発振器を投入

苗字名前氏 左から 船田 敬二氏、二村 良彦氏、塩崎 伸敬氏、山中 國人氏

 電子機器にとって、水晶振動子/水晶発振器は欠かせない存在である。電子機器の動作に不可欠なクロック信号や時間情報を、時々刻々と止まることなく刻み続ける役割を果たしているからだ。文字通り、「電子機器の心臓部」に当たる。

 この水晶振動子/水晶発振器の世界最大手メーカーがセイコーエプソンである。なぜ世界最大手なのか。その理由は、同社の水晶事業の成り立ちにある。同社の水晶事業には、2つの歴史がある。1つは、セイコーエプソンとしての歴史。もう1つは、東洋通信機としての歴史だ。セイコーエプソンの水晶事業は時計向け水晶振動子やデジタル機器向け水晶発振器が強く、東洋通信機は通信機向け水晶振動子/水晶発振器で業界をリードしていた。両社の製品ラインナップと得意な技術は補完関係にあった。この2社の水晶事業が2005年10月に統合され、「エプソントヨコム」という新会社として再スタートを切った(2011年にセイコーエプソンが事業吸収)。この結果、業界をリードする地位に躍り出たわけだ。

 今回、その同社の船田敬二氏(マイクロデバイス事業部 デバイス営業部 TD営業グループ 課長)と二村良彦氏(マイクロデバイス事業部 TD商品開発部 課長)に、水晶デバイス市場における現在の位置付けや、今後の製品/技術戦略、最新製品の特徴などについて聞いた
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

世界の水晶デバイス市場における、セイコーエプソンの現在の位置付けは。

船田 エプソントヨコム発足以来、業界トップクラスのシェアを有していると捉えている。

市場シェアの数字に変化はあるのか。

船田 2014年から2015年には若干のシェアダウンがあるのではないかと考えている。その理由は、高付加価値品市場を重視するビジネス戦略に切り替えていることがある。このため利益は増えているものの、一時的に売上高が減少しているからである。

ビジネス戦略を切り替えて、高付加価値品市場を重視する理由は。

船田 付加価値の少ない製品の市場では、中国や台湾のメーカーが席巻している。この市場では技術力の差を訴えづらい。従って、最終的には価格競争になってしまう。ここで競争すれば、疲弊することが火を見るよりも明らかだ。このため、技術力を生かせると同時に、正当な利益が得られる高付加価値品市場を重視する戦略に切り替えた。

すべてを手がける唯一の水晶メーカー

「技術力の高さ」を具体的に説明してほしい。

船田 水晶振動子や水晶発振器などの水晶デバイスを製造するには、さまざまな技術が必要になる。例えば、人工水晶(インゴット)の育成技術や、水晶素子の加工技術、モジュールのアッセンブリ技術、半導体の製造技術などである。世界に水晶デバイス・メーカーは数多く存在しているが、このすべてを手がけているメーカーは当社だけである。関与する技術範囲が広いため、高性能の水晶デバイスを高品質で製造できる。

半導体製造技術を持っているメリットを詳しく説明してほしい。

水晶事業の強み

図1: 水晶事業の強み

二村 水晶発振器は、水晶片(水晶素子)と発振ICを組み合わせて実現している。半導体製造技術を持っていれば、発振ICを内製できる(図1)。そのメリットは極めて大きい。例えば、消費電力を格段に削減できることが可能になる。水晶片の特性に合わせて、発振ICを作り込めるからだ。水晶のエンジニアと半導体のエンジニアがコミュニケーションを重ねることで実現できる。

 さらにジッター特性を高められることもメリットだろう。水晶片の特性に合わせて発振ICを設計することで、水晶発振器の特性を高められるようになる。

半導体技術のほかに、競合他社と比べて特色のある技術はあるのか。

二村 水晶材料の加工技術である「QMEMS」が挙げられるだろう。QMEMSとは、水晶の英語表記「QUARTZ」と、微細加工技術の1つである「MEMS」を組み合わせた造語だ。水晶素子にフォトリソグラフィー技術を基本とする精密な微細加工技術を施して、水晶片(水晶素子)を製造する。こうすることで小型化しても、周波数の高い精度や高い性能、高い信頼性を実現できるようになる。競合他社にはない、当社オリジナルの技術である。

自動車、ネットワーク、産業/メディカルに注力

船田 もう1つ、当社には強みがある。これは純粋な技術ではないが、水晶デバイスの品ぞろえが業界で最も豊富なことだ。具体的には、「kHz X’tal(kHz帯水晶振動子)」、「リアルタイム・クロック・モジュール/水晶内蔵品」、MHz X’tal(MHz帯水晶振動子)」、「SPXO(水晶発振器)」、「P-SPXO(プログラマブル-SPXO)」、「SPSO(SAW発振器)」、「VCXO(電圧制御型水晶発振器)」、「P-VCXO(プログラマブル-VCXO)」、「VCSO(電圧制御型SAW発振器)」、「TCXO(温度補償回路付き水晶発振器)」、「OCXO(恒温槽付き水晶発振器)」、「AO(原子発振器)」の合計12種類を製品化している。

 競合他社の中で、これほど豊富な品ぞろえを用意しているメーカーはない。当社には、クロックや時間情報に関するデバイスがすべてそろっている。従って、当社に相談してもらえれば、何らかのソリューションを必ず提供できるわけだ。ユーザーにとって、このメリットは非常に大きい。

これまで水晶デバイスの大きなユーザーは、パソコンや携帯電話機、民生機器などの電子機器だった。
しかし最近では、こうした電子機器の製造は、東アジア諸国に移っている。
水晶デバイスのアプリケーション別で見たときのビジネス戦略に変化はあるのか。

船田 当然だが、変化はある。基本的な方針としては、従来のビジネスの主軸だったパソコンや携帯電話機などのパーソナル機器分野はしっかりと守っていく考えだ。これにプラスして、新たな市場を開拓していく。具体的には、自動車分野やネットワーク分野、産業/メディカル/分野である(図2)。すでに市場開拓に着手しており、次第に売上規模は大きくなっている。

パーソナル機器向けと自動車分野向け、ネットワーク分野向け、産業/メディカル分野向けの水晶デバイスは何が違うのか。

アプリケーション別のビジネス戦略

図2: アプリケーション別のビジネス戦略
既存のパーソナル機器分野を重視しながら、自動車、ネットワーク、産業/メディカルといった分野に注力して行く考えだ。

船田 簡単に言うと、自動車向けは、より高い信頼性が求められる。ネットワーク向けは、高い周波数精度が必須だ。産業/メディカル向けでは、採用数量が少ないものの、短い納期で製品を納める柔軟性が求められる。従って、それぞれの用途に向けた水晶デバイスでは、それぞれ異なる工夫が必要になる。

出力周波数を手元で設定できる

注目すべき最新製品を紹介してほしい。

SG-8101/SG-9101の内部構成

図3: SG-8101/SG-9101の内部構成
水晶振動子やフラクショナルN型PLL回路、制御ロジック回路、温度センサー、温度補償回路などで構成されている。

SG-8101/SG-9101の内部構成

二村 現在、市場開拓に着手している産業/メディカル分野に向けた製品を紹介したい。出力周波数を簡単に設定できるプログラマブル水晶発振器「SG-8101/SG-9101」である(図3)。この製品は、当社従来品「SG-8002/8003」の上位互換品である。その従来品と比べると、特性を大きく向上させている。

 改善点は3つある。1つは、動作温度範囲を−40〜+105℃に広げたこと。従来品は−40〜+85℃だった。2つめは、消費電流を従来品に比べて半減させたことである。3つめは、周波数偏差を従来品に比べて約1/3の±15ppm(−40〜+85℃において)に狭めたことである。

なぜ、こうした高い特性が得られたのか。

二村 消費電力の削減については、当社の強みであるQMEMS技術と発振ICの内製が大きく貢献している。周波数偏差については、簡易な温度補償機能を搭載することで狭めた。

プログラマブル機能について、その詳細を教えてほしい。

専用のプログラミング・ツール

図4: 専用のプログラミング・ツール
型番は「SG-Writer II」。ソフトウエアとライター(ハードウエア)からなる。

二村 製品には、OTP(One Time Programmable)メモリーを搭載しており、ユーザーの手元で一度だけ出力周波数を書き込める。一度書き込んでしまえば、その値が保持される仕組みだ。出力周波数の設定範囲は0.67M〜170MHzと広い。しかも、出力周波数の設定に使うPLL回路に、従来の整数分周(インテジャーN)型ではなく、分数分周(フラクショナルN)型を採用したため、細かな分解能で出力周波数を設定できる。

 出力周波数の書き込みには、専用のプログラミング・ツール「SG-Writer II」が対応する(図4)。ソフトウエアと専用ハードウエア(ライター)から構成されており、パソコンに接続して使う。パソコン上で書き込む情報を入力し、ブランク(設定データを書き込んでいない)の水晶発振器をライターに載せて固定するだけで書き込みが完了する。

 書き込み作業は極めて簡単だ。このため、希望する出力周波数の水晶発振器をすぐに入手できる。通常、水晶デバイス・メーカーに、出力周波数を指定して水晶発振器を注文すると、入手できるまで1〜2カ月程度掛かってしまう。この1〜2カ月という納期は、産業/メディカル機器メーカーにとっては致命的だ。産業/メディカル機器は、生産台数は少ないが、製品を短い期間で顧客に納める必要がある。従って、SG-8101/SG-9101は、産業/メディカル機器メーカーに最適なプログラマブル水晶発振器だと言えるだろう。

スペクトラム拡散機能搭載品も用意

SG-8101とSG-9101の違いは何か。

スペクトラム拡散機能の効果

図5: スペクトラム拡散機能の効果
スペクトラム拡散機能を利用することで、放射ノイズ(EMI)のピーク値を低く抑えられる。

二村 放射ノイズ(EMI)を低減するスペクトラム拡散機能を搭載しているか、否かにある。SG-8101には搭載していないが、SG-9101には搭載している。

 出力周波数の書き込みには、専用のプログラミング・ツール「SG-Writer II」が対応する(図4)。ソフトウエアと専用ハードウエア(ライター)から構成されており、パソコンに接続して使う。パソコン上で書き込む情報を入力し、ブランク(設定データを書き込んでいない)の水晶発振器をライターに載せて固定するだけで書き込みが完了する。

 スペクトラム拡散機能とは、出力周波数を積極的に変動させてノイズのエネルギーを分散させることで、EMIのピーク値を抑えるというものだ(図5)。電子機器は、EMI規格で定められた規制値をクリアしなければ市場に投入できない。

 SG-8101とSG-9101はピン互換性がある。そこで、まずはSG-8101で設計しておき、EMIの規制値をクリアできなければSG-9101に変更するといった使い方が可能だ。

 なお消費電流は、SG-8101より、SG-9101の方が若干多い。ただし、スペクトラム拡散機能を備える従来品(SG-9001)と比べると、消費電流は、約75%少ない。

スペクトラム拡散機能の拡散方向や拡散帯域といった各パラメータの詳細値をユーザーがプログラムすることは可能か。

二村 ユーザーが自由にプログラムできる。例えば、拡散方向は、センター・スプレッドとダウン・スプレッドのいずれかを選択できる。拡散帯域は、センター・スプレッドの場合は±0.25〜±2.0%の範囲で、ダウン・スプレッドの場合は−0.5〜−4.0%の範囲で、6ステップで選択できる。拡散周期は6.3k〜25.4kHzの範囲において4ステップで選べる。拡散プロファイルは、ハーシーキス(Hershey-Kiss)波と正弦波、三角波の中から選択可能だ。

SG-8101とSG-9101のパッケージは、どのようなサイズを用意しているのか。

スペクトラム拡散機能の効果

図6 発売したSG-8101/SG-9101の特性

二村 SG-8101とSG-9101いずれも、プリント基板の実装面積を削減できる2.5mm×2.0mm×0.7mmの小型品のほか、実装工程を比較的簡易にできる3.2mm×2.5mm×1.05mm品や、5.0mm×3.2mm×1.1mm品、7.0mm×5.0mm×1.3mm品を用意している(図6)。

プログラマブル水晶発振器の今後の製品戦略を教えてほしい。

二村 さまざまな展開を検討している。例えば、動作温度範囲を広げた自動車向けや高精度品の製品化である。さらに、SG-8101とSG-9101はSPXO(Simple Packaged Crystal Oscillator)のプログラマブル品だが、SPXO以外の品種への適用も検討対象になっている。