2025年11月17日

技術力とサービス力で右肩上がりの成長を達成 高速対応の基板対基板コネクタで存在感

 世界には、さまざまなコネクタ・メーカがある。例えば、日本であれば日本圧着端子製造や日本航空電子、ヒロセ電機など。米国であれば米Amphenolや米Molex、米TE Connectivityなどが代表的なメーカだろう。これらのメーカと比べると知名度こそ劣っているものの、技術力やサービス力を武器に右肩上がりで急成長を遂げているメーカが存在するのをご存知だろうか。それは米Samtec(サムテック)と呼ぶコネクタ・メーカだ。同社は、高速対応の基板対基板コネクタ、ケーブルアッセンブリに強みを持つ。このためAIサーバやネットワーク・スイッチなどのデータセンタ機器にとって欠かせない存在になっている。

 そこで今回は、同社の事業戦略や技術開発の方向性、特に力を入れているサービス、最新製品などについて、同社の日本法人であるSamtec Japanでカントリー マネージャーを務める田崎康平氏と、シニア フィールド セールス エンジニアを務める吉田武洋氏に話を聞いた

(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)

(画像右)田崎康平氏 Samtec Japan カントリー マネージャー
(画像左)吉田武洋氏 Samtec Japan シニア フィールド セールス エンジニア

―― Samtecの受付にトラのぬいぐるみが置いてあった。

田崎 ぬいぐるみは、当社のマスコット「テッシー」である(上記写真)。トラをマスコットに選んだ理由は複数あるが、その1つに「Different breed of cat(異なる品種のネコ)」という考え方がある。トラはネコ科に属する動物。仮にコネクタ業界のメーカをネコだとすると、当社は普通のネコではない。ほかのコネクタ・メーカとはまったく異なる事業戦略を採っているからだ。「普通のネコではない。それはトラである」。そういった考え方から、トラをマスコットに選んだ。

―― 事業方針は、ほかのコネクタ・メーカとどのように違うのか?

田崎 当社は1976年に、米国インディアナ州ニューアルバニーでピンヘッダーのメーカとして創業した。競合企業はいずれも、1万個や2万個といった単位での販売だったが、当社は創業間もないころから1個からの少量でも販売していた。さらに、きめ細かなカスタマイズが可能なことや、フリーサンプルをすぐに出荷することなどにも対応していた。こういったユーザ・サービスに力を入れていることが競合企業の事業戦略と異なるポイントである。

買収の目的は「人材」と「技術」

―― これまでの売上高の推移を教えてほしい。

図1: 売上高の推移
1976年の創業以降、ITバブルの崩壊が起きた2001年や、リーマン・ショックの影響を受けた2009年などを除くと、ほぼ右肩上がりで成長し続けている。2022年には10億米ドルに達したが、2023年と2023年は過剰発注による影響を受けて減速したが、2025年には再び10億米ドルに復帰する見込みだ。赤や緑、青などの色を付けた棒グラフは、その年に企業やグループを買収したことを示す。

田崎 当社は1976年の創業以来、ITバブルの崩壊が起きた2001年やリーマン・ジョックの影響を受けた2009年などを除いて右肩上がりに成長してきた(図1)。そして遂に、2022年に売上高は10億米ドル(約1500億円)に達した。2023年と2024年は新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして発生した過剰発注の影響で売上高は落ち込んだが、その後は順調に回復している。今年(2025年)は10億米ドルに戻るだろう。

―― これまで右肩上がりで順調に成長し続けられた理由は何か?

田崎 適切な時期に人材と技術を社外から取り込んできたからだろう。当社は過去に、いくつもの小さな企業やグループを買収してきた。ただし、その目的は売上高を増やすことではない。人材や技術を獲得することだ。

 例えば、2001年にはある半導体メーカーがITバブル崩壊の影響で事業を縮小した際に有能な多くのエンジニアを、当社がごそっと受け入れた。そうしたエンジニアは、現在の高速対応コネクタの礎(いしずえ)になっている。2004年以降に、コネクタに加えてケーブル関連の技術と人を買収してきている。このときに獲得したエンジニアたちによって、高速でも優れた動作を実現する差動ケーブル「TWINAX」を内製でで持てるようになり、性能改善も自前で行うことができ高速のケーブル製品を展開する際に大きな役割を果たしている。つまり買収後、約20年が経過した今になって売上高に大きく貢献し始めたことになる。

―― なぜ、このような経営方針を採っているのか?

田崎 当社はオーナー企業であり、株式市場に上場していない。また無借金経営を続けている。このため目先の売上高を追う経営を志向していないため、こうした経営方針を採れるのだろう。

―― 開発拠点は、どこに置いているのか。

図2: 工場やデザインセンタなどの設置場所
デザインセンタは、米国各地に置かれている。工場は、米国のほかに中国、台湾、ベトナム、マレーシア、コスタリカなどにある。

田崎 デザインセンタは米国各地にあり、図2においてオレンジ色で示した場所に置いている。売上高が10億米ドルの企業にしては、非常に多くのデザインセンタを抱えている。

 この理由としては、小さな企業やグループを買収してもエンジニアたちを1カ所に集めるのではなく、それまで働いていた場所で仕事を続けてもらっていることが挙げられる。エンジニアは、勤務場所を変えると退職してしまう可能性が高い。このため、従来と同じ場所で働いてもらうようにしている。

吉田 最近では、台湾と日本にデザインセンタを設置した。台湾にはRFコネクタの工場を建設したため、それに合わせてデザインセンタを開設した格好だ。日本のデザインセンタは、高速対応コネクタの開発に取り組んでいる。ただし企業やグループを買収したのではなく、競合企業から1人ずつ雇用することでエンジニアを確保した。

―― 台湾以外に、工場はどこにあるのか?

田崎 実は工場の数も多い。米国に6カ所のほか、中国に2カ所、台湾、ベトナム、マレーシア、コスタリカに工場を置いている(図2)。当社は、1つの製品を必ず複数の工場で製造できるように準備するポリシーがあるためだ。

吉田 もちろん1つの製品を2カ所で製造すれば、コスト効率は低くなる。それでも敢えて、このポリシーを守っている。理由は、ユーザに製品を届ける際のリードタイムを可能な限り短くするためである。工場を分散させた方が、ユーザにいち早く製品を届けられる。

買収の目的は「人材」と「技術」

―― 日本のユーザには、注文してから何日後に手元に届くのか?

田崎 当社は、ユーザに対して「SUDDEN SERVICE」を提供することを目標に掲げている。分かりやすく説明すれば、「お客様を驚かせるようなサービスを提供すること」である。そうしたサービスの1つが、「24時間以内にフリーサンプルを出荷すること」だ。米国のユーザは、当社のウェブサイトで製品を選択すれば、その日のうちに米国本社の倉庫から出荷され、翌日にはフリーサンプルを入手できる。当社は、このシステムを作り上げるために相当大きなエネルギを注ぎ込んできた。

 このサービスをアジア地域のユーザにも提供するため、2023年にシンガポールにも倉庫を設置した。このため日本のユーザは、在庫がある場合は当社のウェブサイトで夕方までに発注すれば、フリーサンプルはその日の夜便に載せられて翌朝に成田に届く。通関に多少時間がかかるが、多くの場合は翌日にユーザの手元に届く。

―― SUDDENサービスには、このほかにどのようなものがあるのか?

図3: 「Solutionator」の表示画面

田崎 当社は、ウェブサイトの整備に力を入れている。例えば、コネクタのカスタマイズ機能「Solutionator」を用意している(図3)。これに伝送速度、端子数、端子ピッチ、形状、接続方向(バーティカル、ライトアングル)などを入力すれば、製品を絞り込むことができ、必要な製品をパソコン上でクリックするだけで注文できる。

吉田 このほか、コネクタの3次元図面をダウンロードできるサービスや、信号品質(SI:Signal Integrity)に関するシミュレーションを実行してその結果を提供するサービスなども展開している。

―― どのようなアプリケーションを設計するユーザが多いのか?

図4: アプリケーションごとの売上高比率
最も売上高比率が高いコンピュータ/半導体でも22%である。次いで、産業機器の21%、医療機器の15%、データコムの13%となる。広い範囲のアプリケーションに満遍なく採用されている。

田崎 当社の売上高をアプリケーション別に見ると、コンピュータや産業機器、医療機器、データコムなどに満遍なく分散している(図4)。半導体チップや電子部品の分野では、自動車向けに経営資源を「全フリ」する企業があるが、当社は違う。

―― 国や地域によって、売れ行きが好調な製品に違いはあるのか。

田崎 やはり米国の西海岸は、米Google等で構成される「GAFAM」の本拠地だけに、サーバ/コンピュータやネットワーク機器などに向けた製品がよく売れる。台湾も同じ傾向だ。GAFAMなどが台湾のODM(Original Design Manufacturing)に、設計や製造を委託しているからである。一方で、日本や中国はまったく様相が異なる。例えば、日本であれば、産業機器向けや医療機器向けの製品が売れている。

AIサーバなどで「Flyoverケーブル」を採用へ

―― どのようなコネクタ関連製品を扱っているのか。

図5: 6つの製品群

田崎 現在当社では、大きく 6つの製品群を扱っている(図5)。創業時から手掛けているピンヘッダー(フレキシブル・スタッキング)」のほかに、「高速対応の基板対基板(Board To Board)コネクタ」「高速対応のケーブル」「光」「堅牢系/電源系コネクタ」と「RFコネクタ」という5つの製品群である。

―― 現在でも、主力製品はピンヘッダーなのか?

田崎 ピンヘッダーは今でも、当社の売上高の3〜4割を占めている。根強いファンがいるからだ。売上高比率は徐々に減少しているが、販売数量は思ったほど減っていない。

 ただし現時点における主力製品は、高速対応の基板対基板コネクタである。当社は小型で多極に対応した製品を数多く用意しており、この分野では業界で最も著名な企業だと自負している。当社が高速対応の基板対基板コネクタを得意としている背景には、最先端を進む米国において高速対応品への需要が強かったことがある。最近ではAIサーバやネットワーク・スイッチなどでデータ伝送の高速化が急ピッチに進んでおり、更に高速対応に力を入れてきた。こうした需要に応えてきたことで、高速対応の基板対基板コネクタに向けた製品力が強化されたと考えている。

吉田 当社の基板対基板コネクタは、1本の入出力(I/O)端子当たり最大224Gビット/秒(bps)の信号を伝送可能だ。

―― ピンヘッダーから高速対応の基板対基板コネクタへは、どのように進化していったのか。

図6: 「Silicon To Silicon」の接続ソリューションへ
よりICに近い場所において信号を接続するソリューションへと移行している。その代表例が、図下部のやや右に示した「Flyoverケーブル」である。

田崎 ピンヘッダーから始まり、そこから徐々にIC(Integrated Circuit)の近くでの信号接続に向けた製品へと進化していった。その過程にあるのが、基板対基板コネクタであり、最近ではよりICに近づいている。いわゆる「Silicon To Silicon」の接続ソリューションである。その代表的な存在が「Flyoverケーブル」だ(図6)。前述の6つの製品群の中では「高速対応のケーブル」に含まれるものである。

 Flyoverケーブルは、コネクタと差動ケーブルを一体化させたもの。高速な伝送信号をプリント基板に作り込んだ信号配線で送るのではなく、差動ケーブルを介して伝送する。つまりプリント基板を飛び越えて、空中を通ってコネクタとコネクタを接続するため、「fly over(飛び越える)」という名前が付けられた。

―― Flyoverケーブルは、どのくらいの伝送速度から必要になるのか。また、その伝送速度の信号を、プリント基板上の配線で送るとどのような問題が発生するのか?

田崎 低誘電率材料を採用した最先端の高速用多層基板を使っても、高速になるとロスが増えてくる。1本、2本ならまだしも多数の差動の高速信号を基板上に引き回し、すべてのレーンで信号品質(SI)を確保するのは非常に難易度が高い。このため112Gbpsと高速な信号の伝送ではすでに、Flyoverケーブルの採用が主流になっている。

吉田 112Gbpsの信号をプリント基板状の配線で送ると、信号品質(SI)を確保するのが極めて難しくなる。さらに64ペアの差動信号(124本のシングルエンド信号)にように、伝送信号の本数が多い場合は、信号間のスキューを補償することが難しくなるだけでなく、引き回しによりどこかのレーンのSIが犠牲になることも多い。

―― コネクタと組み合わせるケーブルは、社外から調達しているのか?

図7: Flyover Cableの優位性(伝送ロス)

吉田 ケーブルは自社製品の高速差動ケーブル「TWINAX」である。これは平行2線の導体を低誘電体で被覆したもの。より線(ツイストケーブル)ではない。平行2線であれば信号のスキューをps(ピコ秒)オーダーで制御できる。しかも、プリント基板の配線で送る場合に比べて、伝送損失を低減できると同時に、信号品質(SI)も高められる。(図7)

―― 現在、Flyoverケーブルを採用している主なアプリケーションは何か?

吉田 高速な入出力インターフェース(I/O)端子を備えるデジタルICを採用する電子機器である。その代表例は、AIサーバーやネットワーク・スイッチなどだ。

―― 日本ではNTTが光電融合技術「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」の開発を進めていたり、海外でも米NVIDIAが光電融合パッケージの開発に取り組んでいたりするという報道がある。現時点における光接続の取り組みの状況を教えてほしい。

田崎 SamtecはCPXと呼んでいますが、XはCopperもしくはOpticsを意味します。Co-package Copper(CPC)は電気のInterconnect solutionですが、Co-Package Optic(CPO)のInterconnect Solutionもパートナー企業と一緒に提案する予定です。お客様は、Substrateの電気のソケット(224GbpsのI/O)は共通でCopperもしくはOpticsをCase by Caseで選んでいただける予定です。こちらについてはまた別の機会で紹介したいと考えております。

112Gbpsに対応する基板対基板コネクタ

―― 現在、販売活動に特に力を入れている製品は何か?

映像1: 「SEARAY」シリーズの製品紹介映像

田崎 今回は2つの製品シリーズを紹介させてほしい。

 1つ目は、基板対基板コネクタの高速品である「SEARAY 8」である。当社には、高速で多極の基板対基板コネクタのベストセラー品「SEARAY」があり、現在も販売している(映像1)。SEARAYは端子ピッチが1.27mmと狭ピッチだが、SEARAY 8はこれをさらに狭めた0.8mmピッチを実現している。このため端子数が同じならば、プリント基板上の実装面積を削減できる。

 SEARAY8が対応できる伝送速度は最大56Gbps、端子(極)数は最大500本(極)である。スタック高さは7mm品と10mm品を用意した。バーティカル・タイプとライトアングル・タイプの両方を用意している。

吉田 SEARAY 8はSEARAYと同様に、「Open Pin Field Array(オープン・ピン・フィールド・アレイ)」と呼ぶ機能を備える。これは、ユーザが各端子の役割を自由にアサインできる機能だ。各端子ともに、差動信号端子、シングルエンド信号端子、グラウンド端子、電源端子のいずれかに役割を割り当てられる。

田崎 SEARAY8の主な用途は、半導体製造装置や検出器などである。

―― もう1つの製品シリーズは何か?

図8: 最大112Gbps対応の基板対基板コネクタ「AcceleRate HD」

田崎 2つ目は、基板対基板コネクタ「AcceleRate HD」である(図8)。この製品シリーズは、より高速な信号伝送に特化したものであり、最大で112Gbpsの伝送速度に対応できることが特徴だ。端子(極)ピッチは0.635mmと狭く、端子(極)数は800本に対応する。今後、1000本を超える端子数に対応する予定もある。位置付けとしては、前述の「SEARAY」の上位グレード品である。将来的にはAcceleRate HDを含む「AcceleRateシリーズ」が当社の主力製品になるだろう。

 なおSEARAYシリーズやAcceleRateシリーズには、TWINAXケーブルを接続してFlyoverケーブルとして利用することもできる。