2025年9月1日

高信頼性ビジネスは航空宇宙/防衛向けだけじゃないアーバン・エア・モビリティや小型衛星などの新市場が急拡大へ

 TE Connectivityによって1999年に買収されたコネクタ/圧着端子メーカーのAMP(買収した当時の社名はTyco International)。このAMPの社名の由来をご存知だろうか。実は、「Aircraft and Marine Products」の頭文字を取って「AMP」と名付けられた。つまりAMPは、航空宇宙や防衛、船舶(マリーン)といったミッション・クリティカルな産業に向けた電子部品を原点とするメーカーである。現在でも、こうしたミッション・クリティカルな産業に向けた電子部品がTE Connectivityの屋台骨を支えている。しかも今後さらなるビジネス規模の拡大が期待できるという。

 今回は、同社のAD&M(Aerospace , Defense & Marine)事業本部でAPAC Sales & Marketing Directorを務めるCheng Jinsheng氏に、ビジネス規模の拡大が期待できる理由や、大きな成長が期待できるアプリケーション、日本市場におけるビジネス戦略などについて聞いた。

(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)

―― AD&M事業本部が対象としている市場を教えてほしい。

Jinsheng 対象とする市場はミッション・クリティカルなアプリケーションだ。言い換えれば、失敗が一切許されないアプリケーションである。例えば、航空機である。使用する電子部品に不具合があれば、墜落といった最悪の事態を招く危険性が高まる。そんなことは決して許されない。従って当社は、信頼性が高い製品を機器メーカーに届けることを最も重要視している。

―― ミッション・クリティカルなアプリケーションは、航空機のほかにどのようなものがあるのか?

図1: AD&M事業本部が対象とする3つの市場
AD&M事業本部は、Aerospace(航空宇宙)とDefense(防衛)、Marine(船舶)の3つの市場に対して信頼性の高い製品を提供する。

Jinsheng AD&M事業本部の「AD&M」は、Aerospace(航空宇宙)、Defense(防衛)、Marine(船舶)」の頭文字から名付けられた(図1)。つまり民間の航空機や防衛機器、船舶における石油/ガスの掘削機器などが主なアプリケーションになる。ただし最近では、こうしたアプリケーションにとどまらない。例えば、電気自動車(EV)向け充電ステーションにも、当事業本部のリレーが採用された事例がある。航空機内部の配電に向けた製品だったが、信頼性の高さが評価されて採用に至った。

―― AD&M事業本部の年間売上高や市場シェアはどの程度か?

図2: AD&M事業本部のビジネス概要
2024年の売上高は13億米ドルだった。対象とする3つの市場のうち、最も売上高が大きかったのは防衛で50%。ついで、商用の航空機が36%、船舶が9%と続く。

Jinsheng 当事業本部の年間売上高(2024年)は、世界全体で13億米ドルだった(図2)。ただしAD&M事業本部が対象とする市場は、世界全体で67億米ドルに達すると見積もっている。従って、2024年の当社の市場シェアは19.4%であり、非常に高いとみられる。

―― 13億米ドルの売上高の内訳を教えてほしい。

Jinsheng 航空宇宙向けが36%、防衛向けが50%、船舶向けが9%である。このほか、エマージング市場が5%である。ここには前述のEV向け充電ステーションのほか、アーバン・エア・モビリティ(eVTOL:Electric Vertical Take Off and Landing aircraft、所謂空飛ぶクルマ)や小型衛星、産業用ドローンなどが含まれる。まだまだメインストリームとは言えないものの、今後の急成長が期待できる市場である。

4つの競合優位性

―― 競合メーカーはどこか?

Jinsheng AmphenolやMolexが代表的な競合メーカーである。

―― こうした競合メーカーに対するTE Connectivityの優位性は何か?

Jinsheng 競合優位性は4つあると考えている。1つ目は、多岐にわたる製品ラインナップをそろえていることだ。例えば、コネクタや圧着端子、ケーブル、リレー、光ケーブルなどにおいて、高信頼性を実現した製品を用意している。
 2つ目は、イノベーションとエクスペリエンス(経験)である。当社はAMPの時代から、ユーザーから求められる高い信頼性の実現に対して、イノベーションを起こすことで対応してきた。こうした経験があるからこそ、ユーザーは電子部品を選定する際に当社をファースト・チョイスとして考えているわけだ。
 3つ目は、クオリティ(品質)とリライアビリティ(信頼性)である。ミッション・クリティカルな分野は、不具合による失敗は許されない。従って、ユーザーからはタフな要求を突きつけられる。しかし、これまで当社はこうした要求に応えてきたため、現在まで生き残れた。こうした経験と知識が評価されていると考えている。
 4つ目は、ユーザーをサポートするファンクション(機能)をきちんと用意していることだ。例えば、日本市場にも営業、プロダクト・マーケティング、品質管理などのファンクションを置いており、ユーザーを適切にサポートするために必要なリソースを用意している。こうした点がユーザーから評価されているのだろう。

―― 信頼性が高いコネクタや圧着端子、リレー、ワイヤなどは、どこの工場で生産しているのか?

図3: 生産工場は北米に集中

Jinsheng もともと当社の前身は1999年に買収したAMPであるとともに、航空機の生産拠点は北米に集中している(図3)。このため生産拠点は北米に集約している。このほかには、英国やフランス、ポルトガルなどの欧州やインドに生産工場を置いている。
 現時点ではまだ、東アジアや東南アジアには生産工場を設置していない。ただし、アジア太平洋地域のユーザーのサポートを考えると、生産工場を置くべきという意見が少なくない。そこで現在、工場建設に向けたアセスメントを進めている段階にあり、将来的には東アジアや東南アジアに生産工場を建設することになるだろう。

―― 中国にも生産工場は置いてないのか?

Jinsheng かつては上海市の近くにケーブル・アセンブリ関連の生産工場を置いていたが、5年前の2020年に閉鎖した。このため現在は、中国に生産工場はない。もちろん中国市場は規模が大きいので、非常に魅力的である。しかしその一方で、知的財産やノウハウが流出する危険性を考慮しなければならない、当社としては、製品の輸出入を含めて慎重に検討していく必要があると考えている。

AMPとRaychemが2強ブランド

図4: 主な市場と製品ポートフォリオ
TE Connectivityは、M&Aを積極的に進めることで、製品ポートフォリオを拡充してきた。その中で2強ブランドと呼べるのが「AMP」と「Raychem」である。

Jinsheng 当事業本部が扱っている製品は多岐にわたる。具体的にはコネクタ、ワイヤ/ケーブル、収縮チューブ、リレー、高電圧コネクタ、光コネクタ、ハーネス用保護素子などだ。ただし、それらの一般品ではなく、信頼性が高い製品や高温動作が可能な製品、堅牢性が高い製品などを商用の航空機やアーバン・エア・モビリティ(eVTOL)、人工衛星、船舶、防衛航空機、防衛衛星、防衛車両、潜水艦、C5ISR(Command Control Communication Computer Cyber Intelligence Surveillance Reconnaissance)などのアプリケーションに提供している(図4)。こうした多岐にわたる製品は、M&Aによって製品ポートフォリオを徐々に拡充してきた。

―― どのような企業を買収したのかを教えてほしい。

Jinsheng 当社は前述のように、AMPを1999年に買収した。当社の始まりは、AMPと言っても過言ではない。AMPは「Aircraft and Marine Products」が社名の由来であり、宇宙航空や防衛などのアプリケーションに向けた圧着端子からスタートした。またAMPはコネクタのメーカーとしても広く知られている。つまり当社はAMPのコネクタと圧着端子をベースとし、その後さまざまな企業を買収することで製品ポートフォリオを拡充してきた。
 そうした買収の中でも特に注目すべき事例はRaychemである。同社の買収によって、ケーブルやハーネスなどの保護に使う収縮チューブを製品ポートフォリオに追加することに成功した。現在の当社にとって、AMPとRaychemは「2強」となる製品ブランドである。

―― このほかに特筆すべき買収の事例を教えてほしい。

Jinsheng 当事業本部にとって特に重要な製品ブランドはSEACONである。2014年に買収した。同社は水中機器などに使われる電子機器向けコネクタのメーカーである。水圧が高い深海などの過酷な環境でも使えるコネクタを提供している。
 このほか「TE Connectivityといえばコネクタ・メーカー」と思われがちだが、パワー・ディストリビューション関連の製品も扱っている。例えば、航空機内部で比較的高い電圧を配電するリレーや高電圧コネクタである。これらもM&Aによって製品ポートフォリオを取りそろえた。買収した企業は4社ある。すなわちCIIとDRI Relays(DRI)、Hartman、Kilovacである。この4社はそれぞれ、対応する電圧領域が異なるリレーを製品化しており、製品の重複はない。このため航空機内部の配電で使用するリレーはほぼすべてそろっている。

日本市場には大きなポテンシャルがある

―― 航空宇宙や防衛、船舶などのアプリケーションに向けた製品をいくつか紹介してほしい。

図5: 代理店経由での販売に注力する分野と製品

Jinsheng 在当事業本部は、インターネット通販会社などの販売代理店経由での拡販に力を入れている。販売代理店経由で開拓したい市場/分野は大きく4つある(図5)。具体的には、アーバン・エア・モビリティ、防衛/商用衛星、航空機の制御システム、電子戦(電磁波を利用した防衛活動)である。
 こうした市場/分野に向けて、すでに数多くの製品を用意している。その中でも今後、多くの売り上げが期待できる製品分野が5つある。それらを以下で紹介しよう。
 1つ目は「High Voltage(高電圧)」である。アーバン・エア・モビリティなどでは、高電圧化が進んでいる。例えば、800Vや1000Vなどである。このため、こうした電圧を配電するコネクタにも高電圧化の要求が強い。そこで当事業本部では、高電圧対応の丸型コネクタを用意している。航空宇宙用エンジンのような耐過酷環境向けコネクタの欧州規格「EN 2997」に準拠する。
 2つ目は「Microdot」である。いわゆる「Micro D-Subコネクタ」であり、高い信頼性が求められるアプリケーションに向けたものだ。過去にはスペースシャトルに搭載された。米国防総省が定めた「MIL-DTL-83513」規格に準拠する。小型衛星やロケットなどに向ける。
 3つ目は「Board-to-Board」である。これは文字通りボード間接続に向けたコネクタである。航空機に搭載されるコンピュータのバックプレーン接続に向ける。バックプレーン通信規格「VITA規格」に準拠する。信頼性が高く、耐環境性に優れている点が特徴だ。
 4つ目は「DMC-M」である。これはモジュール・タイプの角形コネクタで、航空機内部における信号伝送に向ける。EN規格やARINC規格、BACC規格に準拠する。モジュールを差し替えることで、高速通信や光通信などに対応することが可能なため、機器のアップグレードを簡単に実行できる。
 5つ目は、「High Speed(高速)」である。これは、高速通信に対応したコネクタとケーブルを組み合わせて提供するもの。前述のDMC-Mとケーブルを組み合わせて販売するケースもある。

―― AD&M事業本部の製品が採用された具体例を教えてほしい。

Jinsheng 当事業本部のパワー・ディストリビューション製品が英国のアーバン・エア・モビリティに採用された事例を紹介しよう。このアーバン・エア・モビリティには、数多くの当事業本部の製品が採用されている。図6中の黒字で示した電子部品がそれだ(オレンジ色は、TE ConnectivityのAutomotive事業本部の製品)。具体的には、ハーネスを結束して固定する部品「P-Clamp」や、航空機のエンジン向け丸形コネクタ「983シリーズ」、 モータ向け高電圧対応丸型コネクタ「987シリーズ」などである。987シリーズは、983シリーズをベースに開発された次世代コネクタである。

―― 最後に、日本市場に対する期待を教えてほしい。

図6: アーバン・エア・モビリティにおける採用事例
黒字で示した電子部品がAD&M事業本部の製品。オレンジ色は、TE ConnectivityのAutomotive事業本部の製品である。

Jinsheng 日本市場には、非常に大きな期待をかけている。今後5年間で、売上高を約2倍に増やせるポテンシャルがあると見ているからだ。特に期待しているのがアーバン・エア・モビリティ(eVTOL)市場である。極めて大きなビジネス・チャンスがあるだろう。日本のアーバン・エア・モビリティ・メーカーがグローバルの競争に勝ち抜き、大きく成長することをサポートしていきたい。